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昔話『ドウゲン坂から』15

前回のあらすじ

きょうの偽妹ちゃんのことば

「おにいちゃんはずーっと私を利用してくださいねっ☆」

病めるときも、健やかなるときも、ムラムラしたときも……?







ここは坂の上でも、いつものファストフード店でもありません。

お昼時なのに利用する学生がほとんどいない学生食堂です。

勘違いしないでくださいね。

学生たちに不人気だから人がいないのではありませんよ。

ほとんどの学生たちは期末試験が終わり、学校に来ていないだけなのです。

友くんやきーちゃん、私がここにいるのは今日が最後の試験だったからです。

先「じゃあまたねー」

胸囲のマッドサイエンティストが別れを告げます。

私にとっては先輩であり、友人であり、姉のような存在です。

私(血のつながらない姉に、血のつながらない妹……これなんて現実?)

私は目の前にある定食に箸をのばします。

からあげ定食か、ハンバーグ定食か、迷った末に選び抜いたサバの味噌煮定食です!

友「なんでサバの味噌煮定食なんだよ」

きーちゃんの恋人で、私の友人ポジションの友くんが聞いてきます。

彼が食べているのはワカメぶっかけうどんです。

私「魚が食べたかったから」

友「さっきまで選択肢が肉系だったろ」

私「だって……券売機の端っこに追いやられたお魚メニューが目に入ったから……」

私は照れ気味に答えました。

友くんは「誰得?」と言いたげな顔になりました。

彼の隣でソフトクリームを食べているのはきーちゃんです。

彼女は近くのコンビニで買ってきたソフトクリームを黙々と舐めています。

友「それよりさっきの人って誰だ?」

私「先輩だけど」

友「なんだ、彼女じゃないのか」

私「違うよ。彼女ができたらちゃんと教えるよ」

友くんが席を立ってトイレに向かいました。

私は味噌ぶっかけサバ定食を食べ続けます。

きーちゃんはソフトクリームを舐め続けます。

私(彼女ができたら教えるっていってもねー。できる気がしねーっす、ハハ)

よく聞く台詞ですが、教える側にも教えられる側にも何のメリットもないですよね。

き「ねぇねぇすーくん」

私「なに?」

打算的な考え事をしている私にきーちゃんが声をかけてきました。

嫌な予感がしました。

き「どうしてからあげとハンバーグを選ばなかったのか、当てようか?」

きーちゃんは、にこにこ顔で笑えないことを言います。

私「きーちゃんは探偵みたいだね」

私はいつも通り愛想笑いを浮かべるだけです。

き「探偵はすーくんだよ。安楽死探偵さん♪」

私「安楽椅子探偵ね。ってか、探偵じゃないし」

き「むしろヒーローかな」

私「何もできないし、何もしないんだけど」

き「妹ちゃんは喜んでたよ♪」

私「…………」

やはり偽妹ちゃんの話をすることは免れないようです。

私「そういえば、きーちゃんに聞きたいことがあったんだ」

き「奇遇だね。私もすーくんに聞きたいことがあったんだー」

私ときーちゃんは示し合わせたかのように口を開きました。











私「きーちゃんは私を利用して何がしたいの?」

き「すーくんは相手がどういう反応するか分かった上で言葉を使ってるでしょ?」













お互い笑顔は崩しません。

きーちゃんのそれは天然物で、私のは紛い物です。

き「妹ちゃんのお弁当は美味しかった?」

私「美味しかったよ。特にハンバーグとからあげが」

私の脳裏にあの日の光景が蘇ります。

私と偽妹ちゃんは坂を下りた後もいろいろなところを見てまわりました。

雑貨屋、古着屋、古本屋、喫茶店など、いろいろ見てまわりました。

その間ずっと私達の手は繋がれたままです。

みなさんお忘れかもしれませんが、季節は夏の暑い日です。

たとえ相手が女の子であっても夏の暑い日に手を握るなんて暑苦しいものです。

そのことを偽妹ちゃんに言うと、彼女は手を離してくれました。

そのかわり自分の腕を私の腕に絡ませてきました。

妹「これなら暑くないですよね?」

偽妹ちゃんの腕の動きに、その笑顔に、ゾッとしました。

偽妹ちゃんは、きーちゃんに似ていません。

血が繋がっているから顔は似ていますが、本質は全く似ていません。

しかし偽妹ちゃんは、彼女に似ていると思いました。

笑えません。

本当に笑えません。















き「すーくんにはどうして恋人ができないのかな」












好きだった人からの不意打ちメンタル攻撃に精神が崩壊しかけました。

大丈夫です。

なんとか耐えました。
















私「顔が悪いからじゃないかな」

き「えー。目つきは関係ないよー」

















ちょっと待ってください。

顔が悪いと言ったのに、どうして目つきの話になりますか。

つまり私に恋人ができない理由は、顔が悪いからじゃなくて目つきが悪いからですか?

それとも顔が悪い原因は、目つきの悪さに集中しているということですか?

どちらにしても美容整形しろってことですか?

そうなんですか!?

負の感情に任せっきりに思考していると、きーちゃんの顔が近づいてきました。

それこそお互いの瞳を覗きこめるくらいの距離になっています。

私はそのまま抱き寄せてキスしたい衝動に駆られました。

しかし、ラブコメの主人公に向かない人間としてあるまじき行為なのでやめておきました。

人としてもあるまじき行為なのでやめておきましょうね。

ちなみに私の初めてのキスは小学生の時です。

相手は中国人キャバ嬢です。

その人は初恋の人かもしれませんし、違うかもしれません。

それを確かめる前に彼女は強制送還されてしまいましたので分かりません。

今日も入国管理局の方々はお仕事をがんばっているでしょうか。













き「まっこと見事に死んでおりますなー」











きーちゃんは私の瞳をまじまじと見つめた後に感想を述べました。

私は彼女の瞳に吸いこまれて、そのまま目の中で生活したいと思いました。

それから彼女は新しい言葉を紡ぎます。












き「すーくんの目を殺したのは誰なのかなー?」











胸の奥がゾクゾクとしました。

今まで「目が死んでる」と何度も言われてきましたが、「その目は誰が殺したの」と聞かれたのは初めてです。

少しだけ考えてみます。

私(家族、教師、クラスメイト、いじめっ子、ヤーさん、好きだった人……あとは……)

容疑者候補がいすぎて絞り込めませんね。

事件が起こる前からすでに迷宮入りですよ、探偵さん。

それに捜査権限もない探偵が時効を迎えた事件を掘り返してどうするのですか。

私(そもそも私の目はいつ死んだのか……もう時効迎えてる?)

容疑者候補の顔が脳裏に浮かんでは消えます。

でも、やっぱり私の目を殺したのは私自身だと思います。

何となくではなく、確信を持ってそう言えます。

き「すーくんに恋人ができない理由は他にあると思うよ」

私「はーい。目つき以上に性格も悪いからだと思いまーす」

私の考えた答えを聞かず、きーちゃんも自分で考えた答えを述べます。

き「ずっと忘れられない人がいるんじゃないの?」

私「いないよ」

即答しました。

好きな人がこの世からいなくなり、それでも一途に想い続けられるほど、私は義理堅くないのですよ。

きーちゃんは納得したような笑みを浮かべました。

き「妹ちゃんをよろしくね☆」

私「意味がわからないよ」

き「すーくんには、妹ちゃんみたいな年下の女の子が合ってるよ」

私「あのね、きーちゃん。私は年下好きでも、妹萌えでもないからね?」

き「うん。それでもだよ」

きーちゃんが真面目な顔ではっきりと断言しました。

私「どうしてそこまでして……」

き「すーくんと妹ちゃんの幸せを願うのは、友達として家族として当然のことだよ♪」

そんなことを大真面目に言ってのけるのは、私が知る限りきーちゃんだけですよ。

まっこと見事な純粋さですなぁーと称賛したいです。

私は愛想笑いを浮かべたまま、テーブルの下で携帯電話を操作しました。

あの日を境に偽妹ちゃんからのメールが一日に何通も届くようになりました。

パケット定額にしておいてよかったですね、とケータイ会社の人が営業スマイルを浮かべている気がします。

もしかしたら偽妹ちゃんは、Twitterやmixiでつぶやく感覚で私にメールを送っているのかもしれませんね。

私「ねぇ、きーちゃんって友くんが初めての彼氏って本当?」

き「うん。本当だよ」

きーちゃんは友くんの話が出たので嬉しそうです。

彼女が怒るとは思っていませんでしたけれど、私が怒りたくなりました。

変ですよね。

字は似ていますが、恋ではありません。

私「きーちゃんくらい可愛かったら今まで告白してきた人もいたでしょ?」

き「いたよ。でも全部断った」

私「どうして?」

きーちゃんはこの夏一番の笑顔を見せて、ハッキリと言いました。














き「友くんが私にとって運命の人だから♪」












運命なら仕方ありません。

納得のいかないことも面倒なことも全て運命のせいにしてしまいましょう。

そうすれば余計なことを考えなくて済むからです。

余計なことを考えれば考えるほど、人は生きづらくなるのです。

例えば、好きだったあの子はどうして若くして死ななければならなかったのか。

そんなことはいくら考えても原因も理由も見つかりませんよ。

き「きっとすーくんにとっての運命の人もいるはずだよ」

私「そうだね。会えたらいいね」

私にとっての運命の人――。

それは誰でしょうか。

今の私には皆目見当もつきません。

ただ一つ言えるのは――偽妹ちゃんではないということです。

彼女はカノジョに似すぎているからです。

き「すーくんの夏休みのご予定は?」

セーラー服の似合う少女と黒いワンピースが似合う少女を重ね合わせていた私に、きーちゃんが声をかけてきました。

私「実家に帰って墓参りかな」

き「帰省する前にちゃんと夏祭りに行ってあげてね?」

セーラー服を着ていた少女が浴衣姿になって脳裏に浮かびました。

けれど、黒いワンピースを着た少女の服装はそのままです。

これから先もずっとそのままです。

なぜなら彼女は、もう死んでいるからです。

私「夏祭りかー」

き「嫌なの?」

私「いや。夏祭りの時期になると若かりし頃の失敗が……」

き「すーくんは今も若いでしょ」

私「私は浪人と留年を二回も経験してるからきーちゃんよりずっと年上なんだよ」

き「えっ!?」

私「まあ嘘だけどね」

私は彼女の口癖を今も使い続けています。

これから先もずっと――。

おわり

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