本
『鹿男あをによし』 万城目学 幻冬舎
そうだ奈良へ行こう。
鹿せんべいを食べに。
去年の秋、主人公「おれ」は大学院の研究室にいる助手の論文データを消して以来、研究室での居場所を失ってしまった。
また、今年になって半年以上かけた自分の実験に失敗してしまう。
その時、おれに論文データを消された助手が「ざまあみろ」と暴言を吐いたのを聞いた瞬間、おれは助手につかみかかっていた。
研究室の連中に取り押さえられた二人は教授に呼ばれた。
喧嘩の原因を訊かれ、助手は何も言っていないと譲らなかった。
そのせいで「きみは神経衰弱だから」と喧嘩の原因がおれにあると言い、おれのあだ名は「神経衰弱」になってしまったのだ。
教授は定食屋におれを呼び出して、大学を休んでみてはどうかと提案してきた。
その提案というのは、奈良にある女子校で二学期だけの常勤講師として勤めることだった。
この提案には、助手が新しい研究をするためにおれがいつも使っている機材を使いたいから研究を中断してほしいという意味が込められていた。
その場で決断できなかった彼だが、翌日研究室に行くとすでに助手が機材を使って研究を始めていた。
仕方なくおれは教授に奈良に行くことを承諾する。
九月(長月)の半ば、「1−A」の教室に入ったおれは出席をとった。
全員いると思っていたが、一人いないことに気づき、名前を確認すると——堀田イトとある。
そのとき、教室の後ろのドアが開き、女子生徒が入ってきた。
堀田だと思って呼びかけると、彼女はものすごい形相で睨んできた。
さらに遅刻した理由を問いただすと、駐禁を取られたと言う。
しかもマイカーではなく、マイシカだと言い出す。
それからというもの、おれは事あるごとに堀田と口論した。
どうしてもおれと堀田は相性が良くないようだった。
ある朝、おれが大仏殿の裏の原っぱで休んでいると一頭の雌鹿と二頭の雄鹿が歩いてきた。
雌鹿はおれをじっと見つめる。
異様な状況にもかかわらず、彼は立ち上がることができなかった。
雌鹿が口元をもぐもぐしているので、まるでしゃべろうとしているみたいだと感じた。
そう感じた時、鹿が「びい」と鳴いた。
さらに
「鹿せんべい、そんなにうまいか」
おれが鹿せんべいを食べたことを知っていた。
そして
「さあ、神無月だ——出番だよ、先生」と口にしたのだ。
おれは、中年男の声を出す雌鹿と出会ったことで“運び番”に選ばれる。
そして京都に行って“目”という鎮めの儀式に用いる神宝をもらってくることを命じられた。
日本が滅ぶか残るかは、おれにかかっていると鹿は言った。
設定やストーリーは少し違いますが、ドラマ化もしています(・∀・)
「あをによし」とは、和歌の枕詞。
あをによし 奈良の都は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり
諸説あるが、「青丹よし」で建物の青色と丹色の色づかいが鮮やかで、都の眺めはグッドだなあという意味らしい。
本書から引用<(_ _)>
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