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2008/12/26 本『鱗姫』
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2008/12/25 本『エミリー』 嶽本野ばら
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2008/12/17 本『タイマ』 嶽本野ばら
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2008/12/11 本 『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店』
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2008/12/10 本『ミシン2/カサコ』
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2008/12/09 本『ミシン』
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2008/11/16 本『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』
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2008/10/14 本『ロリヰタ。』
本『ロリヰタ。』 嶽本野ばら 新潮社 『ロリヰタ。』 今日も神経科の不毛なカウンセリングを受けて、睡眠薬をもらう。 ファッションにおけるロリータが好きな僕は、無知な医師のカウ

本『変身』 嶽本野ばら

『変身』 嶽本野ばら 小学館



ある朝、星沢皇児が妙に気がかりな夢から目を覚ますと、不細工だった自分の顔がハンサムな男に変わっていることに気づく。

思わず関西弁で絶句した彼は、悪い夢だと思ってもう一度鏡を覗き込む。

だがそこには、小池徹平と加藤成亮をミックスして岡田准一で仕上げたような顔が映っていた。

未だに信じられない状況に戸惑いながらも、今日が日曜日ということで新作漫画『エルドラド』を売りに行くことにした。

三十歳になってもボロアパートに住み、バイトで食いつなぎながら漫画家をしている彼は吉祥寺にやってきた。

吉祥寺通りをひたすら歩き、途中の花屋でローテローゼという薔薇を買い、いつもの場所にビニールシートをひいて漫画を売り始めた。

五年前から『エルドラド』連載を始めて今ではもう九巻。

今日も売れないだろうと考えながらもお客を待つことに。

だが今日は今までとは違い、約二時間で二十九冊が売られていった。

彼は買ってくれた人に対して本と一緒にローテローゼを渡した。

そしてローテローゼが最後の一本になったとき、待っていた客は来た。

ベレー帽を被る太った不細工な女子——ゲロ子だ。

「星沢先生の、お知り合いでござんすかいな?」

時代劇に出てくる人間のような口調で話す彼女に、自分は星沢皇児の弟であると嘘をついた。

さらに兄貴は実家に帰ったことや実家は北海道の富良野であると嘘を吐き、星沢皇児はしばらく戻ってこないと説明する。

そしてお得意様である彼女に本とローテローゼを渡すと彼は足早に立ち去った。

ハンサム顔になった彼の人生は大きく変わった。

バイト先の憧れの女の子とデートで「としまえん」のカルーセルエルドラドを見に行く。

少女漫画家としてデビューが決まり美人女性担当者もついた。

さらに映画化が決定し主演女優と仲良くなる。

ハンサムになったことで全ては良い方向に向かっている、と星沢皇児は思った。

しかし、現実の恋愛は、彼が描く少女漫画の恋愛ほど甘く優しいものではなかった。

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本『ハピネス』

本『変身』

本『ロリヰタ。』

本『下妻物語』

本『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』

本『ミシン』

本『ミシン2/カサコ』

本『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店』
(『ミシン』収録作品【世界の終わりという名の雑貨店】 続編)

本『タイマ』

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本『ハピネス』

『ハピネス』 嶽本野ばら 小学館



「私ね、後、一週間で死んじゃうの」

約束の時間に、いつも待ち合わせ場所にしている井の頭公園前の駅前にあるカフェ『宵待草』に現れた彼女はそう言った。

しかも以前から憧れていたロリータ・ファッションを着ていた。

突然のことに「僕」は驚きを隠せず、注文したカモミールティーを飲まずにくるりと回って見せる彼女をただ眺めることしができなかった。

BABY,THE STARS SHINE BRIGHT、metamorphose temps de fille、Emily Temple cute、Jane Marple、Innocent World ……etc.

数あるロリータ・ファッションを扱うメゾンの中で彼女は Innocent World を選んだ。

CoCo壱番屋で彼女とカレーを食べた後、僕の住むマンションに来ると彼女は最初に言ったことの説明を始めた。

彼女の心臓が生まれつき正常でないことやかかりつけの医者に検査してもらっていることは、僕は知っていた。

その正常でない心臓の血管が細くなり始め、残り十日、生きていられるか否かという状態になったのだという。

悲しい現実を受け止め切れずにいる僕に彼女は、普段通りしてほしいとお願いした。

昨日までと同じように、絵の話をしたり、お買い物に付き合ったり、キスをしたり、セックスをして欲しいと。

翌日、二人は学校帰りに部活をサボって原宿にある Innocent World のお店に行った。

その帰りに寄ったスターバックスコーヒーで、彼女の唇が紫色になりか細い呼吸をする姿を目の当たりにしてしまう。

すぐに薬を飲んで対処する彼女だが、その発作が彼女の心臓が悪いことを物語っていた。

彼は彼女が死ぬ前に彼女のわがままに付き合ってあげようと決意し、彼女に何がしたいか訊ねた。

彼女は、今は決められないと言うので二人はそこで別れた。

翌日の水曜日、僕は初めて彼女の家に入り、彼女と彼女の両親と夕食を食べた。

夕食後、彼女の部屋でアッサムティーを口にしながら今後の予定を話した。

明日木曜日は、僕の部屋でお泊まり。

明後日金曜日は、ママとパパと過ごす。

そして土、日はやりたいことが二つあるのでそれをする。

一つは大阪にあるInnocent World の本店に行くこと。

もう一つは銀座の資生堂パーラーで一万五百円のカレーライスを食べること。

彼女の最後のわがままを僕は了承する。

つづきはネタバレ注意











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ネタバレ注意

本『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』

『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』 嶽本野ばら 小学館



高校一年生の時に兵庫県尼崎から茨城県下妻市という田んぼだらけの田舎町に引っ越してきた主人公、竜ヶ崎桃子。

ふとしたきっかけから、二年生の春に馬鹿で特攻服を着る絶滅寸前の筋金入りのヤンキー、白百合イチゴと知り合うハメになった。

それ以来、ずっとイチゴと桃子は何かにつけ、共に行動するようになる。

イチゴは桃子を最高のダチだと思っているが、桃子はダチでも知り合いでもいたくないと思っていた。

友達でも他人でもない微妙な関係の二人は、いっしょに東京へ行くことが多い。

桃子は、代官山のBABY,THE STARS SHINE BRIGHT に、お洋服を買いに行くため。

桃子はBABY,THE STARS SHINE BRIGHTのファンで、社長兼デザイナーである磯部明徳からデザイナーとして就職を勧められるほどの感性と技術の持ち主だ。

イチゴは、たまにあるロリータ・ファッションのモデルの仕事をするために。

イチゴは高校生で、ダサダサの特服ヤンキーのくせに、普段は土浦のモータースでバイトしているくせに、化粧を変えるとロリ服が似合う超美貌の持ち主なのだ。

しかし、二人とも本気でその仕事に就こうとは思っていなかった。

そして高校三年生になり、桃子とイチゴは留年が決定し、卒業ができなくなった頃。

イチゴのモデルの仕事が入り、桃子とイチゴは水海道駅から東京へバスで行くことにする。

東京の撮影スタジオへ着くと、イチゴは化粧をし、ロリ服を着て撮影を始める。

その間桃子は、磯部と新作のデザイン画の意見を求められていた。

デザイン画を見ていくなかで桃子は、あるデザインがありえないと酷評する。

言葉を見つけ、しどろもどろになりながらも説明をしていくが、最後にはパニックに陥っていた。

そこに撮影を終えたイチゴがエルボーを桃子に喰らわせ、その日の仕事は終了する。

東京駅で水海道駅のバスに乗り込むと、バスはいつも以上に混み合っていた。

そしてバスは発車時刻に走り出す。

バスに乗っている最中、イチゴは暴走族時代の恩人、亜樹美さんに再会する。

どこか寂しげな彼女に話を聞くと、結婚した相手の竜二が亡くなったからお墓を牛久の大仏様の裏にたてようと茨城に行くところらしい。

それを聞いてすごすごと自分の席に戻るが、すぐにイチゴはビールを飲みながら煙草を吸うヤクザに説教をしだす。

すると、ヤクザは素直に煙草を吸わず、持っていたビールを彼女に渡す。

そこから桃子は眠り始め、イチゴはビールを飲み始める。

水海道駅に着く手前で桃子はイチゴに無理矢理起こされる。

バスの中でさっきまでビールを飲んでいたヤクザがトイレで殺されたのだ。

その日は簡単な事情聴取で終わり、翌日ジャスコで二人は会う。

イチゴは亜樹美が殺されたヤクザと知り合いで重要参考人扱いになっていることを話す。

その話をしているとジャスコの警備員、セイジと出会う。

その人は亜樹美と竜二の知り合いで、亜樹美の疑いを晴らそうと決意する。

セイジとイチゴは乗り気で推理していくが、桃子は全くやる気を出さずに推理していく。

事件の事情聴取が進んでいく中、亜樹美さんは他の人からの証言から疑いが晴れる。

しかし、その代わりアリバイがないイチゴに容疑がかかってしまう。

自称“ミステリー通”セイジは超滅茶苦茶な推理で真犯人を捜そうと躍起になる。

一方、桃子はBABYのお洋服を愛するファンとして生き続けるか、BABYのデザイナーとして生きていくか、その狭間で揺れていた。

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本 『カルプス・アルピス』

『カルプス・アルピス』 嶽本野ばら 小学館



画家・田仲容子の遺作を、親交の深かった著者が綴った恋愛小説。


優柔不断な青年が友達に頼まれてプールの監視員のバイトをすることになる。

監視員の仕事を始めた初日から彼女は現れた。

午後一時に姿を見せ、次の休憩に入るまでの二時間、黙々と泳ぎ続ける。

水泳に興味のない僕だったが、彼女のフォームはとても美しく思えた。

僕は休憩時間中にその人と話をして、水泳が彼女にとって、失った記憶を取り戻すためのリハビリだと聞かされる。


今年の初めに彼女の父と母と妹は南の島に行った。

その時、彼女は所用があって行けなかった。

一人で日本に残った彼女のもとに父が遠泳中に死んだという知らせが入る。

彼女は、急遽南の島に行き、父親の葬儀に参列する。

日本に帰る前日、彼女は父が逝った海で泳いで溺れてしまい、気がつくと病院のベッドの上だった。

その時から彼女の記憶は消えてしまったのだ。


青年は彼女の記憶を取り戻すために手助けをすると約束した。

そんなある日、彼のもとに彼女から電話がかかってくる。

彼女は自分の日記を見つけてしまい、その中には父の常備薬である心臓の薬のカプセルの一つを睡眠導入剤に換えたと記されていた。

父を殺したのは彼女だった……。


というのは彼女の勘違いで父を含め家族は薬をすり替えられたことに気付いていた。

父が死んだのは偶然だったと彼女の妹が教えてくれたのだが、彼女は真実を知る前に自殺を図った。

幸い一命は取り留め、彼女の記憶も戻る。

しかし、彼女は思い出したくなかった過去まで思い出してしまうことになる。

彼女は病院のベッドの上で記憶が戻ったことを青年に伝えるとすぐに気絶してしまった。

彼はすぐに病室の扉を開けて、彼女の異変を大声で伝えるが誰も来ない。

悪夢なのかと思った瞬間、突然、蒼い毛並みのコヨーテが彼の首に鋭い牙を食い込ませた。

そして意識を取り戻したとき、今度は青年の方が記憶を失っていた。

彼女の思い出したくなかった過去とは一体。

彼の記憶は元に戻るのか。

そして記憶を取り戻すための鍵を握る意外な人物。

全ての謎が解かれたとき、二人は——。

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本『鱗姫』

『鱗姫』 嶽本野ばら 小学館




*本作品はフィクションです*

*作中に出てくる鱗病は、実在しません*

京都の名家に生まれ、誰よりも美に執着を示す少女・龍烏楼子(たつおたかこ)

彼女は春になると常に紫外線を気にし、日傘をさして高校に登校するほど徹底した肌の管理をしていた。

そのかいあって生まれ持った美しく白い肌と美貌を今も保ち続けている。

ある日、彼女は兄の琳太郎と一緒に Vivienne Westwood で買い物をした後、喫茶店フランソアに立ち寄った。

そこでしばらく休憩していると、以前から楼子をつけねらっていた男がやってきた。

二人はすぐに店を出ると交番に向かって尾行させるためゆっくりと歩いた。

鴨川の河原までやってくると兄はその男を掴まえ、その隙に彼女は四条大橋の袂の交番に駆け込み警察官を呼んだ。

これで一件落着……かに思えたが事態は思わぬ方向に……。

彼女のことを以前から尾行していたのは、畠山といい、なんと彼は警察官だったのだ。

畠山は、楼子が売春組織に所属している疑いでつけていたという。

否定する彼女だが、畠山は聴く耳を持たずそのまま去っていった。

楼子は何故あの男が自分を尾行するのか解らなかった。

売春組織に所属しているわけでもない。

自分とあの男には何の接点もないはずなのに何故。

だが、彼女には、他人には言えないような隠し事があった……。

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つづきはこちら

本『エミリー』 嶽本野ばら

『エミリー』 嶽本野ばら 集英社



【レディメイド readymade】

口の過ぎる私が貴方に話しかけられると言葉を失ってしまう。

貴方は私以上に意地悪で、貴方の話は常に暗号のよう、仕草すら謎めいている。

同性の同僚や先輩たちは、貴方のことを風変わりの人としか思っていない。

しかし、私は皆が悪く言う貴方の関心を惹きたかった。

貴方が大学院で美術を専攻していたと知った私はMoMA展に行ったことがあることを伝えた。

すると、貴方はつまらなそうな顔をしながら私にマティスやデュシャンの話をしてくれた。

が、もっと貴方と話したかったのに最後には「君には解らないよ」と言って私に背をむけた。

意気消沈し部屋に帰ってくると、ジャケットの内ポケットには見知らぬ白い封筒が——。


【コルセット corset】

僕が二十七歳の時、君と出会う少し前に親友の希彌子さんが首を括って死んだ。

当時三十歳だった希彌子さんは、骨董屋で店員をしていた。

僕達は生きる時代を間違えてしまったと、いつも先斗町のカフェーで話していた。

「十九世紀に生まれていればね」

「産業革命が文化を衰退させたのよ」

希彌子さんはよくそう言っていた。

ある日、いつものようにカフェーで僕達はこの時代に合わないと愚痴をこぼしていると「お互い家に帰ったら、自殺しましょう」と希彌子さんは言った。

それから一週間してから僕は希彌子さんが死んだことを知った。

僕は希彌子さんの後を追って死ぬことを決意した。

だが、死にたいのに実行できない自分に対する自己嫌悪が生まれ、いつしかそれは大きな虚無へと姿を変えていった。

大いなる虚無を少しでも和らげようと僕は神経科の病院に通うようになった。

僕は二週間に一度薬が切れると欠かさずその病院に通う。

何故なら僕には、薬をもらうこと以上に大事な用事があったから。

その用事とは、そう、君に逢うということ。

病院通いを始めて約三年が経ち、僕は希彌子さんの享年と同じ三十歳になった。

死ぬ前に色々なことをした。

部屋の掃除を念入りに行った。

グレン・グールドのアルバムを全て聴き直した。

お寿司屋さんに行って、カニ味噌とウニばかりを頼んで満腹になるまで食べた。

そして最後に残ったのは……君にデートを誘うことだった。


【エミリー emily】

何処にも存在しなかったのです。

家の中にも、学校にも、公園にも、カフェーにも存在しなかったのです。

私はどこにも居場所を見出すことが出来なかったのです。

誰と話すのも、誰といるのも苦痛でした。

一人は淋しいですし、孤独です。

けれども、人の速度や習慣に、私は併せることができないのでした。

私はありとあらゆる人間が恐いのです。

そんな私が唯一咎め無しと赦された場所がありました。

それはラフォーレ原宿の路上に面したエントランスの前の、休憩に利用する箱庭のよなスペース。

館内のショップリストが書かれている葉っぱのオブジェの下に、私は隠れるように座り込んでいるのです。

私がいつものようにそこにしゃがみ込んでいた時、貴方は私に声をかけました。

人とコミュニケーションをとることができない私でしたが貴方だけは違いました。

きっと貴方は特別だったのです。

今も私にとって特別であるように。

貴方は Emily Temple cute のお洋服に身を包んだ私をほめてくださいました。

貴方が同じ中学の先輩であること、私と同じような境遇ということもそこで知りました——。

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本『変身』

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本『タイマ』 嶽本野ばら

『タイマ』 嶽本野ばら 小学館




この作品は、大麻所持で逮捕された作者の体験を基に書かれたものです。

大麻の所持・使用は、犯罪です。

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ある日、新宿を歩いていた小説家の「僕」は、乾燥大麻と吸飲用のパイプを持っているところを警察官に見つかり、現行犯で逮捕される。

警察署に連行された僕は、警察官からの執拗な尋問を受けた。

大麻の入手先はどこか、大麻以外に何かやっているんじゃないか、どうして婚姻届を持っていたのか、など様々な尋問が繰り返された。

尋問が終わり、僕は電話をかけたいと願い出たが、要求は却下された。

僕の頭の中は、僕のことを心配する恋人のことでいっぱいだった。

その後、僕は留置所に移り、狭い独房で眠る。

耳の中では、『All Apologies』を歌うカート・コバーンの歌声が微かに、耳の奥で鳴っていた。


翌朝、警察官の怒号で起き、規則に従って布団をたたみ、洗顔をし、食事をとった。

そして再び警察の捜査が始まった。

家宅捜索のため、警察官と共に自分のマンションに行き、部屋をかき回されるのを黙って見続けた。

途中、MILK のカタログを破られたときにキレたものの、冷凍庫に入っていた乾燥大麻だけが見つかっただけで家宅捜索は終わった。

それが終わると、すぐに留置施設へ連れ戻される。

房に帰ってくると、ちょうど夕食だった。

しかし、朝食同様少ししか食べられず、食べた物も嘔吐してしまった。

その後、当番弁護士と呼ばれる弁護士と会い、任命するかどうか話し合った。

僕は、この弁護士が明らかにこの事件に興味がないことを感づき、任命を拒否した。

お金がないから私選弁護士を雇うことはできないが、それでもこの弁護士を雇おうとは思わなかったのだ。

房に戻るとすぐに就寝だが、僕は眠ることができず、考えるのは最愛の恋人のことばかり——。

精神安定剤を飲み過ぎてはいないだろうか、リストカットしてはいないだろうか、ご飯は食べているだろうか。

そんなことばかりが頭に浮かんでは消える。

僕が親愛なるカート・コバーンにお願いするのはただ一つ、僕の恋人を俗悪なマスコミから守ってほしい。


僕が彼女に出逢ったのは、一年と少し前ぐらいになる。

渋谷の道玄坂の辺りを、大麻でハイになりながらふらついていて、名曲喫茶ライオンに向かう途中、朧げな状態でヌード劇場に入った。

スポットライトに照らされ、音楽に合わせ、踊りながら衣装を脱ぎ、裸を見せる踊り子達のストリップ・ショー。

大麻をしているとき、好みの音楽が耳に入ってくるとテンションが上がるが、嫌いな音楽ばかり聴かされた僕は頭痛を催してきた。

だから、五人目の倖田來未の曲の途中で、僕は帰ろうとした。

が、扉を開こうとした瞬間、その曲が終わり、聴き慣れたあの曲が大音量でスピーカーから響いたのだ。

間違いなくそれは NIRVANA の『Smells Like Teen Spirit』だった。

踊り子は、他の踊り子と違ったパフォーマンスを披露していた。

花束で観客を叩き、ギターを振りまわし、『Breed』が流れ出すとステージを走り回り、客席にダイヴした。

彼女のショーが終わったのを確認すると、僕はライオンに向かうことにした。

その時、背後から大きな声で呼び止められた。

振り返って見てみれば、そこには全身 BABY,THE STARS SHINE BRIGHT で固めた完全無欠のロリータ・ファッションの女の子が立っていた。

その子が先程裸で踊っていた子だと気がつくのには、少し時間がかかった。

彼女の名前は、琴乎あい。

彼女と一緒に入った喫茶店で彼女と話をするうちに、彼女が自分と似た趣味嗜好だと知った。

HOLE のコートニー・ラヴが好きで、NIRVANA のカート・コバーンを崇拝している。

そんな二人の史上最強にパンクでピュアなラブストーリー。

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本 『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店』

『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店』 嶽本野ばら 小学館




本『ミシン』収録作品『世界の終わりという名の雑貨店』続編。

青年が経営していた「世界の終わり」という名の雑貨店。

そこに現れた全身 VivienneWestwood のお洋服で固めた一人の少女。

その店を閉めなければならなくなったとき、二人は京都を出て津和野へ逃避行に出た。

クリスマスイヴであるちょうどその日、二人は初めて結ばれた。

何度もホテルのベッドで身体を交わらせることだけを続けた。

近いうちに買い物に出かけようと思っていたある日、逃避行は終わりを迎えた。

少女の家族から捜索願いが出されていて、警察が二人のいるホテルに駆けつけたのだ。

京都に連れ戻された少女は、精神科に入院した。

しばらくの間は、青年が家族の目を盗んで見舞いに来たが、少女の父親にバレてしまい、会うことを禁じられてしまう。

その後、彼女は、青年に遺書を遺して自殺した。

それを知った青年は、彼女の後を追うためナイフを購入した。

しかし、彼がそれを使って死ぬことはなかった。

そのかわり、現実から逃避するために複数の精神科に行って大量の睡眠薬を買い、それらを摂取して一日の大半を眠って過ごすようになった。

それ以外にすることと言ったら、彼女の遺書に対する返信。

青年は彼女が書いた遺書に対する小説のような返事を書いた。

そしてその文章を誰かに託そうと、『世界の終わりという名の雑貨店』という題名をつけて出版社に送った。

ある日、何の期待もしていなかった彼の元に一本の電話がかかってきて、出版をすすめられる。

京都にやってきた女性編集者と話し合いをして彼は出版することを決意する。

また、京都の街を離れて東京で暮らすことも決意した。


出版された『世界の終わりという名の雑貨店』は売れて、毎日取材を受けるようになった。

だが、次の作品を書くように編集者が頼んでも、次の小説の構想が全く浮かばない。

雑誌のエッセイは書けるが、新しい小説はいくら考えても何も浮かんでこないのだ。

東京に移り住んでから約半年が過ぎようとしていた時、彼は自分の具体的な遺書を書くことにした。

『世界の終わりという名の雑貨店』は、彼女への返信。

自分の遺書ではないからだ。

彼は自分の葬式が仏式で行われるのは嫌なので、教会に行って洗礼を受けて死んだときはそこで葬儀をしてもらおうと考えた。

そこで井の頭公園を少し東に外れた住宅街に小さな教会に行き、牧師にそのことについて尋ねた。

牧師は洗礼を受けていなくとも教会での葬儀は可能だと教えてくれた。

さらに教会の裏庭でバザーがあるので寄ってみるといいとすすめられる。

後日、彼は裏庭のフリーマーケットを訪れる。

そこで礼拝の時にオルガンを弾いていた少女を見つける。

不思議なことに彼女は、プロテスタントの教会でありながらマリア像を売っていた。

しかも両目から赤い涙を流したマリア像である。

そのことについて訊いてみると彼女は、「神様……です」とだけ言った。

気になった青年は一万円もするマリア像を買った。

そして袋に入れられたそれを受け取ると彼は驚いた。

なぜなら、袋には「世界の終わり」と書かれていたのだから。

昔、同じ名前の雑貨店を経営していたことを彼女に伝えると、彼女はこう言った。

「偶然なんかじゃないんですよ」

「貴方と私は、ツインズなんです」

それは二人にとって運命の出逢いとなる——。

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本『ミシン2/カサコ』

『ミシン2/カサコ』 嶽本野ばら 小学館



前作『ミシン』 の続編。

約束通り彼女は、竜之介のいない世界からミシンを抹殺した。

追悼ライヴで「ロリータ・デス」を歌い終えたミシンをギターで撲殺したのだ。

倒れたミシンをさらに何度も殴り、動かなくなったのを確認すると彼女は気を失ってしまった。


病院のベッドで目が覚めた彼女は、すぐにミシンの後を追って自殺を試みる。

が、部屋に入ってきた何者かの手によって未遂に終わってしまう。

自殺を止めたのは、抹殺したはずのミシンだった。

殺したはずの人間に彼女は助けられたのだ。

ミシンは入院中、彼女のために芸名まで考えていてくれた。

彼女の芸名は、コウモリ・カサコ——。

名字が蝙蝠で、名前が傘子。

詩人ロートレアモンの言葉から作られた名前だった。

「まるで手術台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出逢いのように美しい」


退院後、傘子はギターのレッスンを、テレビ出演など死怒靡瀉酢のメンバーとして多忙な毎日を送った。

そしてエスな関係とは言えないが、ミシンと同棲関係にもなった。

シャンデリアのある部屋で竜之介の話を聴き、寄り添いながら眠り、一緒にテレビを見て、ギターのチューニングを教わり、レトルトのカレーを一緒に食べる。

そんな平凡な生活を続けていた。

しかし、その平穏な生活を壊すある事件が起こった。

三月の始めから全国を回るライヴ・ツアーが行われていた。

その最終日は、今までで一番盛り上がり、一番怪我人が出たライヴだった。

ツアーを終えた翌日のオフ日、ミシンと傘子が住むマンションに一本の電話がかかってきた。

客の一人井上静子という女性が酸欠による窒息死したという電話だった。

ファンを大事にしないミシンだが、その名前を聞いて動揺する。

病院に着いた彼女たちは、井上静子のこと、これからのことを事務所の社長から説明される。

井上静子は、死怒靡瀉酢のインディーズ時代からのファンだったとミシンは言う。

ミシンの為にエンコーして金を稼いで、ダフ屋で高いチケットを買ってライブに来ていた子だった。

ライヴの終わりには必ず手紙をくれていた。

その子の最後の手紙は「助けて、ミシン」だったという。

井上静子をたすけられなかったミシンは、彼女の死が自分のせいだと思い込み、どんどん自分を追い込んでいった。


数日後、死怒靡瀉酢の追加公演が行われることが決まった。

今までと違うところは、警備員の増員とステージ前に柵を設置すること。

これはミシンからの提案だった。

まだ、井上静子の死から立ち直れていないのだ。

追加公演の日、ミシンはミシンでなくなっていた。

傘子は、本当のミシンを取り戻すためステージ上で行動を起こす。

<関連リンク>

本『ハピネス』

本『変身』

本『ロリヰタ。』

本『下妻物語』

本『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』

本『ミシン2/カサコ』

本『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店』
(『ミシン』収録作品【世界の終わりという名の雑貨店】 続編)

本『タイマ』

本『エミリー』

本『鱗姫』

本『カルプス・アルピス』

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本『ミシン』

『ミシン』 嶽本野ばら 小学館



【世界の終わりという名の雑貨店】

京都の四条富小路を下がった路地に面した四階建て雑居ビルで青年は事務所を開き、ライター業をしていた。

そんなある日、彼は仕事に嫌気がさして部屋を離れることをオーナーに伝えた。

すると、ただでさえ利用者の少ないビルだから残って欲しいとせがまれる。

また、家賃はいらないから何か商売を始めるといいと助言された。

そこで彼はその部屋で雑貨店を始めることにした。

店名は VivienneWestwood が八十一年、キングスロード四三〇番地にオープンした World's End を訳し、「世界の終わり」とした。

お店を始めてから一年が過ぎた頃、一人の少女が店を訪れた。

VivienneWestwood のラブジャケットに黒いミニクリニを併せて、足下は赤のロッキン・ホース・バレリーナ。

彼女はその日、三時間店内にステイしてから五十円の紙石鹸を買っていった。

翌日から少女は毎日のように「世界の終わり」へとやってきた。

開店から閉店までずっと居続けた。

青年はそれを嫌と思わず、嬉しくさえ思った。

少女がお店に居着くようになって半年が経った頃、店を閉めなくてはいけなくなってしまった。

オーナーが蕎麦饅頭を食べて死に、その息子がビルを取り壊すことにしたからである。

青年はその旨を彼女に伝えた。

そして一緒に逃避行に出ることを提案した。

君は大きく深く頷き、金魚のように口をパクパクさせた。

その時初めて彼は知った——彼女が口を利けない人だと言うことを。


【ミシン】

物心ついた頃から流行りものに興味を示せない少女がいた。

その子はいつも独りぼっち。

彼女の心を癒してくれるのは、吉屋信子の少女小説集、尾崎翠や森茉莉の文学作品、バッハやシューベルトの歌曲、中原淳一や高畠華宵の挿し絵などだった。

彼女には古い物にしか興味が沸かないという性癖ともう一つ別の性癖があった。

それは同性にしか興味を示せないということ。

彼女は昔からお気に入りの同性とプラトニックに交わり、交換日記をし、お揃いのハンケチやノートを持つエスな関係になりたかった。

しかし、彼女はチビでデブでブスで、性格も暗く自分で言うほど良いところがない。

エスの関係になりたいと思う人が現れても友達にもなれないだろうと自覚していた。

彼女に逢うまでは……。彼女を見つけるまでは……。

たまたまテレビでやっていた音楽番組に出演していたバンド「死怒靡瀉酢」

死怒靡瀉酢と書いてシドヴィシャス——それが彼女のバンドだった。

メンバーは彼女の他にギター、ベース、ドラムを合わせて四人組のパンクバンド。

ボーカルの女の子は司会者から何を訊かれても面倒臭そうに答える。

そんな彼女の名前はミシン。

美しい心と書いて、美心。

ミシンは、パンクをやっている理由をこう言った。

 パンクはロックを終わらせた音楽だから、好きなだけ。

 パンクって、ロックをパロディにしちゃったの。

 ロックの歴史に終止符を打った音楽なの。

 パンクに未来を求めちゃいけないのよ。

それからデビュー曲「ロリータ・デス」をシャウトした。

ミシンは歌い終えると、マイクをカメラに向かって投げつけるパフォーマンスを披露した。

それだけでは足りなかった彼女は、メンバーの竜之介のギターを取り上げ、床に叩きつけた。

少女はミシンに釘付けだった。

そして彼女こそが私が待ち望んでいた人なのだと彼女は悟った。

彼女はミシンとエスな関係になれるよう登校前に毎日神社で参拝した。

また、メジャーデビュー以来初のライヴがあると聞いた彼女はチケットを何とか入手する。

ミシンの好きなブランドが MILK だと知るとすぐに原宿にある本店に行き、彼女はすぐに MILK を買い込んだ。

お気に入りの MILK の洋服に身を包んだ彼女は初めてライヴを観に行った。

その日、初めて生でミシンを観た素敵な夜を過ごした彼女。

ライヴ終了後も出待ち集団に紛れてミシンが出てくるのを待っていた。

ベースとドラムが姿を現した後、ミシンと竜之介がハイヤーに乗り込んだ。

そのまま去ってしまうかに思われたが、ミシンは車の窓を開けて、彼女に笑顔で声をかけた。

ミシンがファンに話し掛けるのはこれが初めてのことだった。

次の日から彼女は登校前の参拝を下校後もするようになった。

さらに「竜之介が死にますように」という願いも付け加えた。

それは、ミシンが竜之介のマンションで一緒に暮らしていると知ってしまったからだ。

彼女の新たな願いはすぐに叶ってしまった。

竜之介は、交通事故で死んでしまったのだ。

ミシンは仕事を全てキャンセルし、マスコミの前から姿を消した……。

竜之介の死から一ヶ月が経ち、ミシンは久々にマスコミの前に姿を現した。

しかし、ミシンは一言も喋らず、マネージャーが会見で新たなギターを一般から公募すると宣言した。

すぐに彼女はギターを買い、ストリートミュージシャンの作ったデモテープを自分の物と偽って送り、一次審査を突破した。

二次審査の面接の部屋でミシンと再び出会い、また彼女に声を掛けた。

彼女は、審査員の前でキティちゃんの絵が入ったピンク色のギターでAとDとEのスリーコードをたどたどしく弾いた。

しかし、その程度で審査に受かるはずもなく、一次審査のデモテープも偽物だとバレてしまう。

審査員のほとんどから怒られた彼女は頭を下げて面接室から出ようとした。

しかし、ミシンは彼女を気に入り、新しいギターとして死怒靡瀉酢のメンバーに入れた。

こうして、彼女はまた少しミシンに近づくことが出来た。

竜之介の追悼ライヴが一週間前に迫った日、彼女とミシンはスタジオの屋上にいた。

ミシンはそこで竜之介と自分の関係を明かし、追悼ライヴで彼女にあるお願いをした。

追悼ライヴの日、ミシンは彼女の手によって永遠になる——。

<関連リンク>

本『ハピネス』

本『変身』

本『ロリヰタ。』

本『下妻物語』

本『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』

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(『ミシン』収録作品【世界の終わりという名の雑貨店】 続編)

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本『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』

『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』 嶽本野ばら 小学館



ロココ、それは十八世紀後半のおフランスを支配した、もっとも優雅で贅沢な時代。

美術史においてロココといえば、バロックの後に出現した曲線美と華やかで繊細で女性的な様式。

そう言ってしまえば、きこえはよいものの実に軽薄な装飾様式で、美術の歴史の汚点とされ、闇に葬り去られたのがロココ。

そんなロココに惹かれ、ロココに身を捧げ、ロココ的な生き方を全うする少女が日本にいた。

兵庫県尼崎市で生まれた竜ヶ崎桃子は高校生の時からロリータな姿で生き、ロココ時代に流行った刺繍を習い、時代は違えどロココの精神を持っていた。

毎日のように全身を大好きな BABY,THE STARS SHINE BRIGHT で固め、靴だけは Vivienne Westwood のロッキンホースバレリーナで決めて街を歩いていた。

ある日、ブランド品のバッタモンを売っている彼女の駄目親父が仕事で失敗し、身を隠すために彼の実家である茨城に移り住むことになった。

その話を聞いた桃子は、かつてのロココな貴族のように田園を歩ける、東京の代官山にある BABY,THE STARS SHINE BRIGHT の直営店に行ける、という幻想を抱いて移り住んだ。

しかし、彼女が住むことになったのは茨城県下妻。

周りは田園というよりも田んぼばかりがある卒倒してしまいたくなるほどの田舎町である。

しかも家から下妻駅まで徒歩三十分、そこから東京まで行くには最低二時間半かかる。

彼女の甘い幻想は無惨にも打ち砕かれたのだった……。

それでも彼女は、ロリータで田んぼ道を歩き、長い時間かけて代官山で Baby のお洋服を買い占めた。

しかし、ロココの精神に従って労働をしないと決めていた彼女はお金に困り始めた。

今までは駄目親父から騙し取ったお金で買っていたが、今はそうはいかない。

そこで桃子は、駄目親父がかつて売っていたブランド品を格安で売ることにした。

雑誌の広告に載せると返事がすぐに返ってきた。

その中の一人、下妻市に住む白百合イチコという女の子に商品を見てもらうことにした。

桃子が白百合イチコを待っていると、ヤンキーが乗るようなバイクのエンジン音が聞こえてきた。

その音がだんだん近づいてきて、とうとう家の前までやってきた。

悪趣味な色彩に不気味なデザインの原チャリに乗って現れた金髪のヤンキー女こそ、桃子が待っていた白百合イチコだった。

その日は偽物の VERSACE を買って帰ってもらったが、その後も彼女は事あるごとに桃子の前に姿を現した。

一緒にいるうちに桃子はイチコの本名がイチゴということを知り、イチゴは桃子にパチンコの才能があることを知った。

ロリータの桃子とヤンキーのイチゴ——。

共通点もない、考え方も正反対の二人だが、他人とも友達とも言えない奇妙な関係が出来上がった。

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本『ロリヰタ。』

『ロリヰタ。』 嶽本野ばら 新潮社



『ロリヰタ。』

今日も神経科の不毛なカウンセリングを受けて、睡眠薬をもらう。

ファッションにおけるロリータが好きな僕は、無知な医師のカウンセリングでロリコンだと勘違いされる。

僕はロリータ・ファッションは好きだが、幼女や小学生、中学生に性的興味を感じることはなかった。

ある日、インタビューを終えてスタジオを出ると、隣のスタジオで女の子の叫び声が聞こえた。

開けっぱなしのスタジオを覗くと、知り合いの編集者とカメラマンがいたので挨拶しようと中に入った。

すると、そこには僕より少し背が高い十八歳から二十歳くらいのモデルの女の子がロリータを着て、俯いていた。

彼女が言うには、スタイリストのコーディネイトが気に入らないと言うのだ。

スタイリストは怒っているが、ロリータに詳しい僕はモデルの子の意見が正しいと思った。

僕は、彼女に本当のロリータ・ファッションをコーディネイトしてあげた。

撮影は無事成功し、モデルの女の子は僕に感謝し、メールアドレスの交換をした。

何度かメール交換をして、僕は彼女と再び逢うことになった。

ホテルで彼女とババ抜きをするために——。

初めてホテルでババ抜きをして以来、僕と彼女は何度もホテルでババ抜きをした。

そんな楽しい時間を過ごす二人だが、ある雑誌に作家をしている僕がスキャンダル記事が載せられた。

その記事で初めて僕は、彼女の本当の年齢を知ることになる。


『ハネ』

私の背中には羽がある。

この羽は私だけの為に作られた特別の羽で、貴方が私にくれた一番大事な宝物。

家族や他人からキチガイ扱いされても、私はその羽をつけて外出する。

毎週日曜日、明治通りの交差点から青山通りの交差点までの表参道。

私は日曜日になると他の露天商さんたちと同じように羽を売る。

貴方からもらった羽よりも小振りだけれど、自分で作った羽。

「ハネ 全部千円 背中に付けられます」と書かれた画用紙と一緒にハネを広げてお客さんに見てもらう。

私が表参道の歩道でハネを売るのには理由があった。

私の前からいなくなった貴方との約束。

貴方と二人でこの場所に露天を開いて売ろうと約束したから。

あれから一年が経ち、私は今日もハネを売る——。

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