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昔話『ドウゲン坂から』14

前回のあらすじ

「全国の帰宅部員よ。

   歩け!!

   歩くのだ!!

 その足が動く限り!!」

「馬鹿でしょ?」

「……」

「まあ、そういうところも……」

「……っ!?」






彼女は突然のことで状況を理解できてないようですが、私は心ない言葉を吐き続けます。

偽妹ちゃんは本当に馬鹿です。

どうして自分のことをそこまで卑下するのでしょう。

偽妹ちゃんにも良いところがたくさんあると思うのです。

彼女のことを何も知らない私が何を言っても意味がないのは知っています。

私の心のこもっていない言葉では、彼女の心が響かないことも知っています。

でも、これだけは言わせてください。














私「人を頼って生きることはいけないの?」














妹「えっと……」

私「そりゃ頼ってばかりで自分で何もしないのはダメだよ。でも、偽妹ちゃんは違うでしょ?」

妹「そんなことないです。頼ってばかりです……」

私「お弁当は? 誰かに頼って作ってもらったの?」

妹「違います! 自分一人で作りました!」

偽妹ちゃんは初めて自信を持った口調で言いました。

私「ほらね。偽妹ちゃんは頼ってばかりじゃない」

私はへらへら笑って言いました。

妹「でも、その程度のことなんて……」

私「偽妹ちゃんにとってはその程度のことでも、他の人にとってはすごいことかもしれないよ?」

妹「……」

彼女は納得いかないといった風な表情です。

逆の立場なら似たような表情になると思います。

私「人は頼ったり頼られたりして生きてるんだよ、多分」

妹「多分?」

断定してしまうのはいけないと思いました。

何となくですが。

私「みんな頼って頼られて生きているんじゃないかなー、多分」

妹「おにいちゃんも?」

私「そう。私も、偽妹ちゃんも」

私は浮かべていた愛想笑いを消して、真面目な表情で言いました。

妹「でも私は……頼ってばかりで頼られることなんてありません」

やはり私の薄っぺらい言葉では彼女の心には響きません。

まあ、そりゃそうですよね。

えーと、他に何か偽妹ちゃんにかける言葉はあったかなー。

あ、ありました。

私「きーちゃんがお弁当を作るときに手伝ってあげたんだよね。それって頼られてるってことじゃないの?」

妹「それはそうですけど……でも……でも……私は頼られる価値なんてありません」

なんでしょうね、この子は。

どうしてそこまで自分を卑下したいのでしょう。

どうしてそこまで姉より劣った妹でいたがるのでしょう。

偽妹ちゃんはドMの素質があるんですか?

もしそうだったら止めませんよ。

むしろこのまま……いえ、何でもないです。

私(ドMはドMでもド面倒くさいの方じゃないかなーっと失礼なことを思ったり)

あー面倒ですねー本当にー。

私の中で何かが壊れそうです。

そして隣に座る背丈の小さな女の子を壊したい衝動に駆られました。

















私「じゃあ私が偽妹ちゃんを頼る」












妹「え?」
















私「そのかわり、偽妹ちゃんは私を利用すればいいんだよ」











何がそのかわりなのか、何がいいのか、自分の言葉なのに意味がわかりません。

あの時の私はいつも以上にイカレていたのかもしれません。

まあ、夏の暑さのせいにしておきましょうか。

私「偽妹ちゃんは人に頼るのが嫌なんでしょ?」

妹「はい……」

私「それなら私を利用すればいいんだよ」

妹「えと……なんで? え、どうして?」

意味不明理解不能と言いたげな表情です。

私「人に頼ることはできなくても、私を利用することなら簡単にできるでしょ?」

私は愛想笑いしかできません。

















妹「そんなことないです!!」

偽妹ちゃんが声を荒げて言いました。

私が意味不明理解不能な話ばかりしていたせいですね。

間違いありません。

彼女は突然立ち上がって私の前に立ち、深々と頭を下げてきました。

数分前の私を見ているようです。

そして――。

















妹「ごめんなさい!!」

私「何が?」

妹「おにいちゃんには申し訳ないと思っています」

私「私は気にしてないけどね」

妹「おにいちゃんの質問にまだ答えてませんでしたよね……」

私が彼女に投げかけた質問は『私を利用して何をしたかったのか』です。

記憶力に自信のある皆さんは覚えていませんでしたよね?

あれ?

妹「この前、高校で終業式があったんです」

私「うん」

偽妹ちゃんは立った状態のまま話し始めます。

私はランニング状態のまま静止しようかと思いました。

妹「元彼とはクラスが別だったんですけど、たまたま会って……話をしました」

私「うん」

私は偽妹ちゃんを座らせました。

膝の上に。





















まあ、嘘ですけどね。

妹「最初は夏休みの予定とか話してたんですけど……なんか、最近付き合い始めた子がいるって言われて……」

私「……」

元彼氏何やってんですか。

元彼女に今付き合っている女の話をして優越感にでも浸りたかったのですか?

馬鹿ですね。

とんでもない阿呆ですね。

私は元彼氏を罵倒したい気持ちを抑えて偽妹ちゃんの話を聞きます。

妹「別れたばかりなのに……もうできて……私ってあの人にとって何だったんだろって考えたら……」

私(何この昼ドラみたいなドロドロした話は……)

妹「それで気づいたら……私も恋人ができたって嘘ついちゃってて……」
 「それで元彼が見てみたいって言ってきて……」

私(何このB級ラブコメみたいな展開は……)

妹「でも私……すーくん以外に異性の知り合いがいなくて……本当にごめんなさい」

私「えと、うん。大体予想通りだったけど……もういいよ」

悲しいことに最初から最後まで予想通りでした。

なんとなーく、そのために呼ばれたんじゃないかと思っていました。

きーちゃんの妹さんが来たことと、その元彼氏が来たことから何となくわかりました。

妹「すーくんは……」

私「なに?」

そういえば、呼び方がすーくんに戻っていますね。

先ほども時々戻っていましたけれど。

妹「安楽死探偵?」

私「え……?」

え、死ねと?

妹「あれ、違いました?」

いや、死にたいのは山々なんですが……。

その時私はGoogleの検索機能を思い出しました。

私「もしかして安楽椅子探偵?」

妹「そうです! それです!」

ここにはニート探偵事務所はありませんよ?

現実ですから。

まあ、ありすという名前の女の子は……何でもありません。

私「あはは……」

妹「あれだけで推理するなんてすごいです!」

私「推理じゃないし、探偵でもないから。全然すごくないよ」

なんでしょう。

以前会った時と、今日会ったばかりの時と、今の印象と、全然違う気がします。

妹「それでもおにいちゃんはすごいです!」

また呼び方が変わりました。

コロコロと変わりますね。

呼び名も印象も精神状態も。

私は何となく、本当に何となくですが、彼女のことを怖いと感じました。

私「とりあえず、もうこんなことはしないでね?」

妹「はい。絶対にしません」

妙に明るい表情で話す彼女にまた少し恐怖心を抱きます。

私はすぐに立ちあがって坂を下ろうと促しました。

すると彼女は、私の手を握ってきました。

しっかりと握られているので離れそうにありません。

私「え?」

妹「ダメですか?」

血のつながらない偽妹に、セーラー服で、ポニーテールで、女子高生で、上目遣いで、言われてしまいました。

おまわりさん違うんです。

援助交際じゃないんです。

血のつながっていない偽兄偽妹プレイですから。

信じてください。

妹「あの、これからもおにいちゃんに頼っていいですか?」

私「え……」

妹「ダメですか?」

再び血のつながらない偽妹に、セーラー服で、以下同文。

私「じゃあ、一人でできないことならいいよ」

妹「ありがとうございます!」

胸の奥がゾクっとしました。

続けて偽妹ちゃんは言いました。

妹「おにいちゃんは私のことを利用してくださいね?」

私「え?」

妹「私は頼ります。だからおにいちゃんは私を利用してくださいね?」

何かが、おかしい、です。

私は話を引き出すためにそう言いましたが……あれ?

妹「あ、今度地元でお祭りがあるんです。私、おにいちゃんと一緒に行きたいです♪」

私「あ、あー、夏祭り? 予定がなかったら行きたいかなー」

妹「絶対ですよ?」

偽妹ちゃんは私の手をさらにぎゅっと握りました。

私は何となく、何となくですが、あることに気づいてしまいました。

偽妹ちゃんが元彼氏と別れた理由と、偽妹ちゃんはきーちゃんと似ていないということに。

私(元彼氏の方は推測だけどね)

どうやら私の願いは叶わなかったようですね。

私(きーちゃんも偽妹ちゃんも……天然で純粋というところは一緒なんだけどね)

しかし、天然にも純粋にも種類があると思うのですよ。

私(危うい天然純粋と危うくない天然純粋?)

あー、どうしたものですかねー。

このままだと私もこの子も……。

妹「どうかしたんですか、おにいちゃん?」

私「ううん。何でもないよ」

私と偽妹ちゃんは手と手を取り合って坂を下っていきました。

他の人が見たらそれは、まるで本当の兄妹のように見えたでしょうか。

それとも――。

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