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昔話『笑年傷女』 6

前回のあらすじ

へいへいへい、バッターびびってるぅー





ある夏のことです。

私は野球経験ゼロの状態でバッターボックスに立たされました。

私(帰りてぇ)

どうして野球をすることになったのか覚えていません。

しかし、バッターボックスに立たされたことは事実です。

そして心の準備も打つ準備できていないうちに、ピッチャーがボールを投げました。

そのボールはものすごいスピードで私の方に向かってきます。

私「……」

















ボカッ!!




















私「初打席で頭にデッドボール喰らってから野球少年が嫌いになった」

人を憎んで野球を憎まず、とはこのことです。

許すまじ。

まじ許すまじ。

偉い人や徳の高い方がおっしゃりたいことも分かりますよ。

「罪を憎んで人を憎まず」という言葉ですよね。

でも私はあの言葉が嫌いです。

「いじめを憎んでいじめる人を憎まず」

あはは。

「黙認を憎んで教師を憎まず」

あはは。

「無関心を憎んでクラスメイトを憎まず」

あはは。

この言葉には別の意味が含まれているのかもしれませんが、やはりダメですね。

笑えない冗談は嫌いです。

私の隣に座る彼女は心底呆れたような口調で話します。

女「金属バットで殴られるよりマシでしょ」

私「え、殴られたことあるの?」

女「あるわけないでしょ。頭おかしいんじゃないの?」

私は彼女の方を向いて話をします。

しかし彼女は私の方ではなく窓の外を眺めたまま話しています。

彼女と話しているうちに気づきました。

彼女は機嫌が悪かったり都合が悪かったりすると目を合わせてくれません。

彼女は私が思っていた以上の人嫌いなようです。

そしてそれ以上に――自分嫌いなようです。

そうでなければ自分の腕を刃物で傷つけるわけがありません。

私「あのさ……」

女「なに?」

私「何でもない」

女「あっそ」

私の頭の中にある『このクラスにいじめはありません計画』を伝えようとしてやめました。

廊下から人の足音が聞こえてきたからです。

そして足音の持ち主が教室の前までやってきました。

R「……」

私「おはよう」

女「……」

親友だと思っていた人に挨拶をして返事が来なかった時の辛さを知りました。

さらに言えばなんだか親友は怒っているみたいですよ。

私「どうした?」

私は素直に訊きました。

彼が何について怒っているのか。

R「Tが屋上で待ってるぞ」

私「知ってるよ」

今日も強い日差しが地上に降り注いでいます。

それに比例して気温も上がりまくっています。

R「それならなんで来ないんだよ」

私「こいつと話したかったから」

女「……」

R「あのさ、言ったよな」

私「あのさ、二人に聞きたいんだけど」

R「なんだよ」


















私「もしかして、前に付き合ってた?」





















スパァン!!

















私「痛っ! なんでビンタ!?」

彼女は怒りに満ちた表情で私を見ています。

あれ、機嫌が悪い時は顔を合わせないと思っていたんですけどね。

ああ、なるほど。

怒りのボーダーラインを越えるとビンタが飛ぶのですね。

女「あんた頭おかしいんじゃないの!?」

私「ひでぇ。一日に二度も言うなんてひでぇ」

泣いちゃいますよ。

ところで、どこかにテニスコートないですか?

R「やっぱりお前は才能持ちだよ」

Rは離れたところで納得したような表情をしています。

それに少し笑っています。

私「で、付き合ってたの?」

女「は?」

R「俺にはアイラがいる」

ですよねー。

彼女は相変わらず怒っていますが、Rはさらに笑みを浮かべました。

R「俺にはできないことでもお前ならできるんだなぁ。」

私「……なるほど」

Rが彼女に近づくなといった理由がなんとなく分かりました。

私は彼に近づいてそっと耳打ちしました。

























私「お前も殴られたのか……」

R「ああ。あいつのビンタ痛いよな?」

私「痛い痛い。耳ちぎれるかと思ったわ」

R「なー。俺なんて二十回喰らったぞ」

私「うわぁ死んじゃう。それ死んじゃうよ」

R「ガ・ン・バ・レ♪」

Rはとてもいい笑顔で言いました。

私「絶対無理☆」

私は泣きそうになりながら言いました。

ふと振り向けば、名前の知らない女の子がさらに苛立ちを見せています。

こういう時は、下手な言葉をかけるよりも行動する方がいいです。

それが私を助けてくれた人達の方法です。

私「屋上に行こう!」

R「だな」

女「え、ちょっと」

私は彼女の手を取って屋上に走り出しました。

私たちの戦いは、まだ始まったばかりなのです。

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