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昔話『笑年傷女』 5

前回のあらすじ

彼女を傷つけるのは――。




T「今日の朝、お前どこ行ってたんだよ」

私「トイレだけど」

T「長すぎだろ」

私「ごめん。その後に教師に見つかったから屋上に戻れなかった」

その日の放課後、私たちはバー『しおいぬ。』に来ていました。

私とTはカウンターに座って話をしています。

Rは裏通りの風俗店に勤める白人女性アイラと抱き合っています。

この暑い中、お互いの体を重ね合わせるなんて心中行為ではないでしょうか。

そんなに早死にしたいのでしょうか。

私「……」

抱き合う二人を見ていたら、何故か名前の知らない少女のことが頭に浮かびました。

あのナイフは自傷行為のためにあり、自殺行為のためではないと思います。

しかし、ナイフによる自傷行為で人が死なないとは限りません。

なぜなら彼女が持っているものがナイフだからです。

テレビのニュース番組や推理小説で「凶器」と分類されてしまう代物です。

そんな危険なもので日常的に自身を傷つけていたら、誤って腕を深く傷つけてしまうことも傷口から細菌が入ってしまうこともあり得ます。

彼女はそれを分かっているのでしょうか。

どちらにしても私には関係のないことですね。

私(でも、あの傷はまた触りたいなぁ)

一人納得したところで周りを見ます。

Rは白人女性と相変わらずいちゃいちゃしていますし、Tはカウンター内の冷蔵庫をあさり始めました。

おじさんは酒を貯蔵している倉庫を整理しているのでいません。

私「暑くないの?」

R「暑いよ」

私「やめれば?」

R「愛する人とのスキンシップは大切だぜ」

Rはとてもいい笑顔で恥ずかしげもなく言いました。

私は妙にイラッとしました。

なぜなら最近、私は好きな人と会うことができていないからです。

裏通りの風俗店で働く中国人女性で、名前をリンさんと言います。

最後に会ったのは三週間ほど前でしょうか。

思い切り抱きしめてくれて、アイスを食べさせてくれて、別れ際にはキスをしてくれました。

とても優しくて、とても柔らかくて、とてもエロい人です。

私「はぁ……」

最愛の人と会えない寂しさからため息が出てしまいました。

それを聞いたRがニヤニヤと冷やかすように言ってきます。

R「ダメな女に惚れると身を滅ぼすよ」

私「あ?」


温厚な私でも聞き流せることと聞き流せないことがあるというものです。

私「殺すぞ」

R「目が怖いぞ」

私「生まれつきなんだよ」

R「言っておくけど、リンさんのことじゃないからな」

私「じゃあ誰を……」

途中まで言いかけて口を閉じました。

誰のことを言っているのか、何を言いたいのか、大体わかってしまいました。

また、彼女のことですか。

腕に傷痕があるというだけで何だというのでしょう。

どうしてそこまで毛嫌いするのでしょう。

詳しい理由を聞いてみたいところですが、ここで反発してしまうと面倒なことになると思います。

私「これからは気をつけるよ」

ここは適当に言葉を濁しておくのが妥当な判断です。

Rがさらに追及しようとする素振りを見せましたが、私は先に帰ることを告げてその場を後にしました。

バーを出てから辺りを見回しながら注意して歩きます。

夏という季節は開放的になる人間が多いらしく、裏通りでは喧嘩によるケガ人が続出しているそうです。

毎朝TとRといっしょにボクシングの真似事をしているとはいえ、狂人相手に闘う気は全くありません。

私(ナイフ相手に素手で挑めるほど強くないし)

小走りに表通りに出られる細い道を進んでいくと、今日も道端で商売をする外国人男性を見つけました。

私「こんにちは、アラブさん」

ア「はい、こんにちはー」

アラブ人だからという安直な理由で名付けられたのは言うまでもありません。

実際はアラブ人ではなくてインド人ではないかと噂されていますが、顧客にとっては名前も国籍も関係ありません。

ア「今日は一人?」

私「はい」

前回はTとRといっしょに来ました。

その時Tは外国で販売されている車雑誌を買い、Rはコンピュータ部品を買っていました。

アラブさんはお金さえ払えば何でも売ってくれます。

もし商品がなくても注文すればクスリでも銃でも何でも揃えてくれるようです。

実際、この街のヤク中のほとんどがアラブさんからクスリを購入してラリってるそうです。

ア「最近はダメね。昔より稼ぎにくいよ」

アラブさんは残念そうな表情で愚痴をこぼします。

私「カプセルドラッグでしたっけ?」

私はドラッグ全盛期の頃のことを聞いてみました。

この街の裏通りで一時期流行ったドラッグらしいです。

それはクスリの種類ではなく販売方法からその名前がつきました。

ガチャポンを想像していただければ分かりやすいと思います。

その当時この街では、ガチャポンのカプセルにクスリが入れられて販売されていたそうです。

カプセルでは持ち運びが面倒なのではないかと思うのですけどね。

まさか本物のガチャポンのように硬貨を入れて購入するわけがないでしょう。

ア「そうそう。あれは便利だったね。商品を入れてお金を回収するだけで良かったから」

私「……」

まさか……ですよね。

私は段ボールに入れられたアラブ印の商品を確認していきます。

雑誌、香水、歯ブラシなどそこらへんのスーパーマーケットでも買えそうなばかりでした。

ア「ガチャピンいる?」

私「いりません」

どうしてガチャポンと言えないのでしょう。

いや、黄緑色の化物か赤色の化物に会えるものなら会ってみたいですけどね。

ア「バカチョンいる?」

私「いりません」

今のところは必要ありません。

今のところは。

おもしろそうなものはないかと探してみると、何なのか何に使うのか分からない代物が見つかりました。

私「何ですかこれ?」

ア「トランシーバー」

私「へぇ。いくらですか?」

ア「2万円」

私「……本当は?」

ア「2万円」

前に購入した手錠と使い捨てカメラと比べたら桁違いのお値段です。

小さくても高性能なのでしょうか。

一度使ってみたいものですが、お金にそれほど余裕はないのであきらめましょう。

それにまだ計画すら立てていません。

計画を立てずに実行するほど私は計画性のない人間ではありません。

私「じゃあ今日は帰ります」

ア「アイヨー。またねー」

なんだか来日したばかりの中国人のような口調ですね。

これからのことやこれまでのことを考えながら表通りに出ました。

私(アラブさんに頼るのはまだ早かったかな)

それにまだ彼女の意志を聞いていませんからね。

まあ、どちらにしても実行しますけどね。

このクラスにいじめはありません☆

笑えない冗談を笑えない事実にしてしまいましょう。

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