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昔話『笑年傷女』 4

前回のあらすじ

イカレた女は美しいという証明できない現実

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朝の教室。

一番後ろの窓際の席。

二人の生徒。

笑年傷女。

私「今日も早いね」

女「悪い?」

私「誰も悪いなんて言ってないよ。今まで遅刻ギリギリだったのに珍しいと思って」

女「……あんたに関係ないでしょ」

彼女はふて腐れたような口調で言いました。

私にではなく窓に向かって。

私は苦笑しながら彼女の長袖姿を眺めます。

この夏の暑い日に一人我慢大会をしているイカレた女の子です。

しかし、夏の暑さにやられて頭がおかしくなってしまったわけではありません。

彼女がやられているのは頭ではなく心の方ですから。

私(原因は何かな……)

家族、学校、恋愛、勉強、体の悩みなど色々あります。

まあ、そこらへんは少しずつ追究していきましょう。

そこにTとRがやってきました。

T「行くぞ」

私「わかった」

私は返事をして立ち上がりました。

女「どこ行くの?」

振り返ると、今日初めて彼女がこちらを向いて話してくれました。

それだけで嬉しい気持ちでいっぱいになりましたが、本当のことを話すことはやめておきました。

私「ちょっとそこまで」

女「あっそ」

彼女はまた不機嫌そうな顔を窓に向けてしまいました。

屋上に出てみると、夏の暑い日差しが私たちに降り注ぎます。

T「あちぃ」

私「あっついなぁ」

R「今日はやめない?」

私「賛成」

T「……日陰でやるぞ」

私「一人でやってろ」

次の瞬間、夏の日差しとTの拳が降り注ぎました。

R「大丈夫か」

私「もう慣れたよ。あの短気野郎め」

私は頭にできたこぶを氷で冷やします。

Tはふて腐れながらも日陰でシャドーボクシングをしています。

R「忠告したよな」

私「されました」

R「なんで近づいたんだよ」

私「知りたいから」

R「あいつのことを!?」

私「他に誰がいる」

Rは呆れた表情を見せます。

私は愛想笑いを浮かべます。

R「あいつは変人で嫌われ者だよ」

私「私は自分で知りたいんだ」

人の目で見た彼女と私の目で見た彼女は、いい意味でも悪い意味でも違います。

Rの目から見た彼女は、変人で嫌われ者だそうです。

変人は分かります。

夏の暑い日に長袖を着るなんて変人ですよね。

さらに嫌われ者ですか。

そちらも何となく分かります。

あの歯に衣着せぬ物言いは、敵を作るでしょうね。

嫌われても仕方ないと言いたくありませんが、気づいたら敵に取り囲まれているなんてこともあり得そうです。

自ら四面楚歌状態を形成するなんてバカかマゾヒストだけですよと忠告してあげたいです。

R「これ以上関わるな」

私「別にいいじゃん」

R「聞けよ!」

温厚なRが珍しく怒っています。

私は少し真面目な表情をして詳しい話を聞くことにします。

私「何かあったの?」

R「一年の頃からずっとクラスがいっしょだけど、あいつが長袖しか着なくなったのは去年からなんだよ」

へぇ、それは知りませんでした。

それなら彼女がリストカットし始めたのは去年からということですか。

私の精神が崩壊したのと同じ時期に、彼女の精神にも何かしらの悪影響があったというわけですね。

私が何かの宗教を信じていたら神の悪戯か神の与えた試練と捉えたかもしれません。

しかし私は神も人も信じることができなくなったダメ人間です。

ここは偶然と考えるのが自然でしょう。

この物語が誰かの妄想ならまだしも、これは現実にあった物語なのですから。

もしもこれを妄想の話にできるなら、私は――。

深い絆で結ばれた家族がいて、心の底から信じあえる友人がいて、人生の師と仰ぐことができる教師がいる学校で、勉学に励む学生という設定で生きてみたいものです。

私「ふーん。それで?」

R「俺もお前みたいに何度か声をかけたんだよ」

私「へぇ。どうだった?」

R「……殴られた」

私「女の子を惹きつける才能が泣くね」

R「うっせ。それでも話かけ続けたんだよ。そしたらあいつ、長袖をめくってみせたんだ」

私「……」

R「長袖の下には何があったと思う?」

私「さあ」

Rは一呼吸置いてから言葉を告げます。




















R「腕に気持ち悪い傷痕があったんだよ……」















私は何も言わずにその場を後にします。

Rが言おうとしていたことに気づいていました。

それでも彼の口から聞きたいと思い、知らないふりをしました。

そして予想通りの答えが返ってきました。

予想していたのに、分かっていたのに、どうしてこんなにも心が痛いのでしょう。

少女の腕には数えきれないほどの傷痕があります。

しかしそれは私の愛想笑いと同じなのです。

傷つくことを恐れた私は、これ以上傷つかないために愛想笑いで心のバランスを取るようになりました。

それが彼女の場合はナイフで腕に傷をつけることでバランスを取るのでしょう。

愛想笑いか自傷行為――些細な違いです。

私にとっては些細なことでも、他の人にとっては違うようです。

私「笑えない……」

その場の気分で足を動かしていた私は、いつの間にか教室に戻ってきていました。

まだ教室には彼女しかいないかもしれません。

そう思って教室を覗くと、彼女の席を女子生徒が取り囲んでいました。

私はその光景を見て、去年のことを思い出してしまいました。

さらに彼女たちから発せられる言葉を聞いて、とてつもなく嫌な気分にさせられました。

私「おはよー。あれ、どうしたの?」

わざとらしく教室に入りました。

一斉に女子生徒が振り返り、何事もなかったかのように散ります。

名前の知らない少女は黙って教室を出ていきました。

このクラスにいじめはありません☆

あはは、笑えませんね♪

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この記事に対するコメント

無題

おお、前の話の続きですね!!

【2012/04/10 00:11】光一 #5331d7ba51(URL)[編集]

無題

はい、前の話の続きです。

すでに過去の出来事ですから結末は決まっています。それを思い出しながら、わかりやすくおもしろく伝えられるようにがんばります。

【2012/04/10 18:08】three #7dd1f3efa1()[編集]

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