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昔話『笑年傷女』 12

前回のあらすじ

ゆるやかに狂う。



彼女が自分の人生を語って聞かせてくれたように、私も自分の人生を語って聞かせました。

彼女を同情するために語るのではありません。

彼女に同情してもらうために語るわけでもありません。

他人の弱さを知っておいて自分の弱さを知らせないなんて不公平だと思ったからです。

彼女が自分の弱さを教えてくれたから、私も自分の弱さを教えることにしたのです。

それだけです。

私は歩きながら背中の彼女にだらだらとくだらない話をします。

彼女からは小さな息遣いは聞こえても返事や相槌はありません。

私「愛想笑いはいいよ。愛想笑いを浮かべてお世辞を言って相手を喜ばせておけばいいんだから」

女「……」

私「そうすればほとんどの人は敵にならない。誰からも傷つけられずに安心して生活できる」

女「ほとんど……?」

それは何にだって例外があるからです。

へらへら笑って気持ち悪いと思う奴もいると思います。

食べ物に好き嫌いがあるように、人間にも好き嫌いがありますから。

だから、いじめはなくならないのかもしれませんね。

あの人は好き、でもあいつは嫌い

あいつは気持ち悪い、みんなもそう思ってるからいじめよう。

食べ物の好き嫌いはなくしましょうと教えられますが、人間の好き嫌いはどうしようもないですからね。

だからといっていじめていい理由なんてないですけどね。

私「愛想笑いを覚えるつもりはない? 教えるよ?」

女「……ちょっと降ろして」

背中の傷女をゆっくりと降ろします。

数分ぶりに彼女と顔を合わせました。

その表情は少し憂鬱そうです。

くだらない話を長々と聞かされたのだから当然です。

女「あんたは……それでいいの……?」

私「うん」

女「それって自分の気持ちに嘘ついてるわけでしょ?」

私「うん、そうなるのかな」

楽しくて笑っているわけではないですからね。

でもそうでなければ愛想笑いではありません。

女「そんなの、キツイでしょ?」

キツイとは思いません。

楽だとも思いません。

それでも私は慣れてしまいました。

毎日のように親戚や同僚、知り合いに愛想笑いをしている母親を見ていたからかもしれません。

それに、大人になったら嫌でも愛想笑いをするのです。

いけすかない上司でもそりの合わない同僚が相手でも、愛想笑いをしなければいけない時が来ると思います。

それなら今のうちに覚えていても損はないでしょう。

それに私にとっては弱い心を守るための防衛手段ですから。

これしない、心折れる、私死んじゃうます。

愛しのリンさんに寂しさが私の日本語をカタコトにさせています。

女「私はいいよ」

彼女はこれからも『自傷』に頼るようです

私「そっか」

私はこれからも『愛想笑い』に頼ります。

けれど私はそれ以外にも頼るものがあります。

私「まあ面倒なことがあったら友達の私を頼ってよ」

女「あんたに?」

私「頼れないのなら利用してくれてもいい」

女「はぁ?」

私「いや、私なら頼る価値はなくても利用する価値くらいはあるといいなーと思って」

女「頭おかしいんじゃないの?」

そう言って彼女は顔を背けました。

私「何を今さら。あとイカレてるのはお前も同じだろ」

私は笑って応えました。

彼女はちらりとこちらを見ると、自分の足で歩き始めました。

私も少し遅れて足を踏み出します。

それから彼女の隣について並んで歩きます。

私は何を話せばいいのか思いつかず、彼女も何を考えているのか分かりません。

とうとう会話も無いまま彼女に家に着いてしまいました。

私「ここ?」

女「うん」

私「じゃあまた明日」

女「あのさ……」

私「なに?」

彼女は私と視線を合わさずに話します。
















女「ありがとう」















喉の奥からしぼり出すような声でした。

それでもしっかりと私の耳に届きました。

私「友達だからね」

喜びのあまりよく分からないことを口走ってしまいました。

案の定、彼女も何とも言い難い表情です。

なんとか弁解しようと思いましたが、新たな言葉が見つかりません。

その間に彼女が話し始めます。

女「あのさ、あんたも頼っていいからね?」

私「え?」

女「だから友達なら……あたしを……」

私「ああ、頼れってこと?」

女「……」

鈍感は罪です。

感覚が鋭すぎるのも考えものです。

私「じゃあ、いきなりだけど一ついい?」

女「なに?」

私「×××って呼んでもいい?」

女「はぁ!? ふざけてんの? イカレてるの?」

私「ふざけてはいない。イカレてるとは思う」

女「はぁ……あんたが何を考えてるのか分かんないわ」

私「すみません」

女「でも、それでいいよ」

私「え、いいの?」

提案しておいてなんですが、受け入れられるとは思っていませんでした。

×「×××ね。まんまあたしじゃん」

私「そうだね」

×「あんたにも何かあだ名つけてあげようか」

私「何か思いついたの?」

×「やっぱり面倒だからいいや」

私「ひでぇ」

×「あはは。じゃあまた明日」

久しぶりに彼女の笑顔を見た気がします。

ここ最近は学校放火計画を練るために険しい表情ばかりでしたから。

×××が家に入るのを確認してから私も家に向かいます。

足取りも気も重いです。

それでも帰らなければいけません。

そこが私の家なのですから。

私(帰ったら使い捨てカメラを探そう)

あだ名をつけることも友人らしい行動です。

けれど、困っている友人を助けるのも友人の役目なのです。

頭のどこかでドナドナが聞こえた気がします。

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この記事に対するコメント

無題

XXXにどういうあだ名をいれたか、気になりますね。
さて……どうこの先展開していくか♪

【2012/07/12 19:02】光一 #5331d7ba51(URL)[編集]

無題

×××はそのまま彼女を表す言葉が入りますね。
この先どういう展開ですかー。この昔話は次で終わりです。それから昔話『夏と花火と私の失敗』に続きますね。

【2012/07/13 23:01】three #7dd1f3efa1()[編集]

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