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昔話『あの日見た花の名前を私達は忘れない』17

前回のあらすじ

『友人』だけど『友達』だと思っていない。



先輩の家からそう遠くない場所に友人の家はあります。

彼も実家暮らしではなく私や先輩と同じように一人暮らしです。

だからドアホンを鳴らせば出てくるのは彼だけです。

私「こんばんは」

友「よう……先輩から聞いたか……」

友人は虚ろな顔をしながら言葉を発します。

私「まあね」

友「入れよ」

私は黙って応じます。

部屋の中に入っても友人と私は向かい合うように立ったままです。

そして友人はさっきよりもずっと虚ろな表情で言いました。












友「俺を殴ってくれ」















私は黙って友人を殴りました。

彼の顔面に私の右拳が入り、崩れるように後ろに倒れました。

友「……」

私「……」

友「先輩。どうしてた?」

私「聞かなくても分かるようなことを聞くなよ」

友「ごめん……」

私「謝る相手を間違えてるよ」

友「だよな……」

友人は今にも泣き出しそうな顔を手で隠して天井を見上げます。

私は友人を真っ直ぐに見据えます。

友「好きだったんだよ」

私「……」

友「マジで惚れてたんだよなぁ……俺」

私「……」

友「なんであんなこと言っちゃったんだろ」

私「……」

















友「気持ち悪いって……」















想うことも思うことも自由です。

その人のことを好きだと想ってもいいです。

その人のことを嫌いだと想ってもいいです。

その人のことをイカレてると思ってもいいです。

その人のことを気持ち悪いと思ってもいいです。

自分以外には分からないのですから。

分からなければ何を想ってもいいということにはなりませんが、想うだけなら誰も傷つけることはありません。

しかし、それを言葉にしてしまったら誰にでもその想いが分かってしまいます。

人を傷つけるような想いも分かってしまうのです。

私「アホ」

友「わかってるよ」

私「お前がこれからやることはわかってる?」

友人は黙ってうなずきました。

私は黙ってそこを離れました。




それから一週間ほど経ちました。

私ときーちゃん、きーちゃんの彼氏の友くんの三人は食堂でご飯を食べていました。

き「すーくん。またお家に遊びに来てね♪」

私「あ、ありがと……」

き「嫌なの?」

私「嫌じゃないよ。でもさ、私より招待しなきゃいけない人がいるんじゃないの?」

き「んー?」

きーちゃんは首を傾げながら考えます。

招待されたがっている人がきーちゃんのすぐ隣にいるというのに、彼女自身はまったく分かっていません。

他人のことならよく気がつく女の子ですが、自分のことになると異常なほど鈍感なのです。

き「やっぱりすーくん以外にいないよ?」

友「……」

私「……」

きーちゃんの彼氏である友くん。

毎日メール交換をしないと怒られ、毎日いっしょに帰らないと泣かれ、他の女の子について話すと刃物を向けられてしまうきーちゃんの彼氏です。

つまり、きーちゃんとラブラブむっぎゅーな関係の男の子です。
 
友達の私は何度もきーちゃんのお家におじゃましていますが、彼氏の友くんは一度も行ったことがないそうです。

私「友は?」

あまりにも不遇な境遇にいる彼が可哀相なので聞いてみました。

き「ダメ」

友「なんで!?」

友くんが泣きそうな顔できーちゃんに聞きます。

すると、きーちゃんは頬をほんの少しだけ赤らめて言いました。
















き「だって友くんが最初に私の家に来るのは、結婚のあいさつの時って決めてるんだもん」













私は心の底から思いました。


















リア充爆発しろ!!















思うだけなら自由ですよね(・∀・)ネー

それから頭の中で「へっ! きたねえ花火だ」と連呼しながらお茶を一口飲みました。

するとそこに一人のマッドサイエンティストが現れます。

先「やっ! みりんちゃん」

私「先輩……いきなり後ろから来るのはやめてください」

先「別にいいでしょ。夜中に私の部屋で激しい運動をした仲なんだから」

き「すーくん。浮気はダメだよ」

私「私は何もしていません! 付き合っている人もいません!」

先「ひどい。私とは遊びだったのね……」

き「妹ちゃんとは遊びだったの……?」

変なテンションの女を二人同時に相手するのはとても疲れます。

ラブコメの主人公に向いている人なら気の利いたジョークを挟みながら話せるのでしょうけどね。

しかし私はラブコメの主人公に向かない人間です。

そんな私がこの場を切り抜ける方法があるとしたら、話題をそらすぐらいしかありません。

私「今日も実験ですか。大変ですね」

先「うん。でも手伝ってくれる人がいるからそんなに苦じゃないよ」

私「いっしょにお昼でもどうですか?」

先「ありがと。でもお手伝いくんがMスバーガーを買いに行ってくれてるから」

私「そうですか。ではまた今度」

先「またね」

先輩はにっこり笑って食堂の出入口へと向かって行きます。

今日も先輩の身体からは、香水の香りも花の香りもしません。

いつものように理科準備室を思い出させる薬品のような匂いがします。

それでも先輩は――ユリの花のような人だと私は思います。

おわり。

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