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昔話『私たちは世界を救うことができない』9

前回のあらすじ

しつこい人は嫌いです。

男でも女でも。



私が友人との馴れ初めを話して聞かせたところ、先輩は泣き出してしまいました。

女の子を泣かせてはいけないと何度も教えられたのに。

私はまたその教えを破ってしまいました。

しかし何故でしょうね。

人間というのは知り合ったばかりの人の前でも泣けるものですか?

嘘泣きならまだしも本気泣きですからね。

私にはよく分かりません。

私「あの、すみません」

私は何について謝ればいいのかもわからないまま謝罪の言葉を述べます。

先輩の目からは涙が流れ続けます。

彼女はそれを止める様子はありませんし、私にそれを止める権利はありません。

涙を流したままの先輩が言います。

先「みりんちゃんは何も言い返さなかったの?」

私「逃げるのに必死でしたからね」

先「言い返しなよ」

私「はぁ」

面倒くさいです。

それに生きている価値がないのは当っていると思います。

そんな反抗的な態度をとっていたら先輩の手が頭上から降ってきました。

先「お姉ちゃんチョーップ!!」

私「イテ。何するんですか」

先「みりんちゃんは生きる価値があります。はい復唱」

私「……」

先「ほら早く」

えー、そんな恥ずかしいことを復唱しなければいけないんですか(´Д`;)?

しかし今度は往復ビンタをされかねないので心のこもっていない声で復唱します。

私「みりんちゃんは生きる価値があります」

先「うわー。自分でみりんちゃんって言ったよ、この子。うわー」

私「ひどい……」

今度は私が泣きそうになりました。

先輩は少し嬉しそうでした。

それを見て私は両腕を大きく広げます。

以前から先輩に対してやってみたいと思っていたことがあったのです。

私「お姉さま」

先「ん?」

初めて会ったその日に私は、彼女の推定Cカップの胸を背中で堪能しました。

だから次の機会があったら正面で推定Cカップの胸を堪能したいなと思っていたのです。

セクシャルハラスメント?

いいえ、スキンシップです。

その証拠に先輩も肩幅くらいに腕を開き、私に近づいてきてくれています。

そして両手を前に伸ばしきったまま私の両肩を押してきました。

そのまま押し倒されました。

ア~レ~。

そういえば相撲の技に押し出しはありますが、押し倒しってありましたっけ?

私「……」

先「……」

先輩は私を押し倒した後に腰あたりに乗りかかってきました。

総合格闘技でいうところのマウントポジションですね。

ちなみに以前はマウントポジションからグーパン連打を喰らいました。

マウントポジションからのグーパン連打は総合格闘技ではよくある展開です。

あの時は本当に痛かったなぁ。

危うく意識が飛びましたよ。

さて、今回もグーパン連打が来ると思って顔面をガードしているのですが、なかなか拳がやってきません。

別に来なくてもいいというか、来ない方が私としては嬉しいのですが、ガードを少しだけ開けて先輩の顔を見ます。

先輩は無表情で私を見下しています。

先「この前ね、友人とこんな状態になったんだよ」

私「そうですか」

これはまた生々しい話ですね。

みなさーん、ズボンを下ろすのはまだ早いですよー。

背後を確認して、ティッシュの用意をして、信仰している神に祈りを捧げてからにしてくださいね☆

先「いっしょにハヤシライスを食べて、いっしょに話をして、なーんか良い雰囲気になったから……」

私「なるほど。もう止まらなーいとなって友人を押し倒したんですね?」

コーンフロスティのCMは最近見ないような気がします。

そういえばあのトラの名前ってなんでしょうね。

トラ吉……?

トラッキー……?

先「できなかった……」

私「……」

先「友人のこと好きだから告白したし、友人のことが好きだからしたいと思ったの」

私「……」

先「でも……できなかった」

私「……」

先「怖くなっちゃったんだよね」

私「……」

先「友人は私を受け入れてくれたのに。私は友人を受け入れられなかった」

私「……」

先「やっぱりレズだから無理なのかな」

私「……」

先輩は相変わらず無表情で坦々と語っておられます。

私は相変わらず死んだ目つきで推定Cカップの胸を凝視しています。

まあ、嘘ですけどね。

私は何の断りもなく腹の上に乗り続ける先輩に言いました。

私「先輩はレズじゃありませんよ」

先「え?」

そうです。

先輩は百合の花のように綺麗な方ですが、今はもうレズではありません。

なぜなら彼女は――。













私「先輩はバイセクシュアルです」

先「……」














確かに少し前までの先輩は女性しか愛さないレズだったでしょう。

百合と言い換えてもいいです。

しかし今は男である友人を愛しています。

男を愛した時点でレズではありません。

だとしたらバイセクシュアルというのが妥当だと思います。

「普通の女の子です」とは言ってあげません。

深夜に呼び出していきなり押し倒すような人を「普通」扱いするほど私は優しくないのですよ。

先「みりんちゃんはたまに恐ろしいほど現実的だよね」

私「そうですか?」

先「うん。普通じゃないよ」

私「先輩に言われたくないです」

先「こんな状態になっても襲ってこないところもおかしいし」

私「略奪愛には興味がありません。イカレた女は大好きですけど」

先「やっぱり普通じゃない」

「普通」じゃない先輩に「普通じゃない」と言われてしまいました。

「普通」がよく分からない人は国語辞典や検索エンジンを使って調べてくださいね。

私はなんとなく彼女を傷つけたくなりました。

私「ビッチ」

先「処女」

私「……」

先「……」

私はこの奇妙な状況を切り抜けるために話題を全く別の場所に着地させます。

私「お母さん。ハヤシライスが食べたいです」

先「せめてお姉ちゃんと言いなさい」

そこでようやくマウント状態から解放されました。

テーブルの前で座って待っていると先輩がハヤシライスを持ってきてくれました。

先「お待たせー」

私「わーい。サラダはないんですか?」

先「ございません」

無邪気な声で聞いてみましたが、ないものはないようです。

私は冷めないうちにハヤシライスを食べ始めます。

先輩は対面に座って私が食べるのを眺めています。

先「みりんちゃんって私のことどう思ってる?」

私「バイセクシュアル」

先「面倒くさいからって不真面目に答えないで」

わりと真面目に答えたつもりなんですけどね。

まあ面倒くさいとは思っていましたけれど。

私「好きですよ」

先「私も好きだよ」

私「先輩として」

先「後輩として」

私「姉として」

先「妹として」

私「身の危険を感じました」

先「あはは」

ひとしきり笑ったあとに先輩は俯きながら言いました。

先「でもまだ友人と付き合ったわけじゃないんだよね」

私「へぇ」

先「淡白」

私「濃厚でコクがあって美味しいですよ?」

先「ハヤシライスの話じゃなくて」

私「私は友人ではありませんビッチ」

先「そんなことは知っている処女」

私「じゃあなんで押し倒したんですか?」

先「んー実験」

なるほど。

この人は根っからの理系人間であることを忘れていました。

友人が相手ではダメでした。

それなら私が相手だとどうなるのかを実験してみたのですね。

先「怒らないの?」

私「怒りませんよ」

先「なんで?」

私「実験を手伝ったかわりに美味しいご飯を食べさせてもらっているわけですから。文句は言いません」

先「みりんちゃんってたまに恐ろしく打算的だよね。おかわりは?」

私「いただきます」

それから先輩はおかわりを盛るためにキッチンに向かいました。

その背中に私は声をかけました。

私「関係はしっかりさせておいた方がいいですよ」

先「そうね。友人ともみりんちゃんともね」

私「実験動物と研究者?」

先「姉妹?」

私「なんでそうなるんですか」

先「じゃあ先輩後輩?」

私「間を取って友達にしましょうか」

先「うーん……」

私「先輩は男女の友情は成り立たないという了見の狭い方ですか?」

先「じゃ、今はそれにしとこうか」

私「ですね。お母さん、おかわりまだー?」

先「だからお姉さんにしなさい」

私「お姉さま。ハヤシライスにじゃがいもは入れませんよ」

先「じゃがいもに芽が出始めたから入れた」

私「しかもなんで牛肉でも豚肉でもなくて鶏肉なんですか」

先「牛は高い。豚は買い忘れた。鶏は冷凍してたのがあったから」

こうして私と先輩との関係は「友達」ということになりました。

今のところは――。

この関係が今後変化することはほとんどないと思いますけどね。

きゃぴる~ん☆

おわり

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