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少しイカレてるくらいがちょうどいい
『赤朽葉家の伝説』 桜庭一樹 創元推理文庫



鳥取県西部の紅緑村。

山陰地方の山脈の奥の方に住んでいると言われる“辺境の人”に置き忘れられた幼子が一人。

この子は村の若夫婦に引き取られ、すくすくと育っていく。

幼い女の子は、物心ついたころから不思議なものを見た。

それは掛け軸の文字が勝手に替わって示す予言であったり、死者が部屋に入ってきて身振り手振りで説明したり、ときには意味のわからない映像として視ることもあった。

その中でも“一ツ目”の男が空を飛ぶ姿を見たことは、ずっと覚えていた。

後に鉄業で財を成した旧家・赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。

これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。

赤朽葉毛毬は猛女であり鉄の女であったが、ただ一つ勝てないものがあった。

それはなにかというと死者であった。

毛毬は戦いに明け暮れて生きた激しい女であったが、そこここで不思議と死者に足を取られた。

血気盛んな彼女は無免許で乗ったバイクやチャリンコで、仲間とともにぱらりらぱらりらと村道を駆け抜けていた。

そして暴走族<製鉄天使(アイアンエンジェル)>を結成して仲間と走る青春を送り、死ぬ直前まで少女漫画を描きつづけた赤朽葉毛毬。

これが、わたしの母である赤朽葉毛毬だ。

そして語り手であるわたし、赤朽葉瞳子。

わたし自身には、語るべき新しい物語はなにもない。

ほんとうに、なにひとつ、ない。

そんなある日、祖母の万葉がわたしに言った。

「おまえにだけ、言うけれどねぇ」

「わしはむかし、人を一人、殺したんよ。だれも、知らないけれど」

「だけど、憎くて殺したんじゃないんだよ……」

それが万葉の最期の言葉だった。

祖母が死んだ。

――祖母が、殺人者だったとは。

何者でもないわたしは、祖母がいったい誰を殺したのか探ることにした。

旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに描き上げた稀代の雄編。


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