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昔話『しおいぬ。』 3

前回のあらすじ

「どんな凡人でも最低一つは才能があるよ」

「あなたの才能は?」

「……」

「え、何?」

「……ひよこのオスとメスを一瞬で見分けられる才能」





私(やっちまった……)

その日、私は後悔していました。

イカレた人間を惹きつける才能があると言われただけであんなに怒るなんてアホです。

私はすぐに親友二人に連絡し、マスターに謝りに行くことにしました。

昨日通ったのと同じルートで裏通りに入り、灰色のビルの脇を通ってBar『しおいぬ。』に向かいます。

扉を開くと、マスターがピンク色のドレスを着た白人女性を傷つけていました。

彼は細長い針を握り、彼女の白い肌にぷすりぷすりと刺していきます。

白人女性の隣には、チャイナドレスを着た女性が座っています。

中国人でしょうか。

彼女はけらけら笑いながら酒を飲んでいます。

私(ナニこの状況……)

白人と中国人とアル中バーテンダーというイカレた組み合わせです。

私達の存在に気づいた白人女性が立ちあがって歩み寄ってきました。

左腕からは赤い血と黒い液体がどくどくと流れています。

外国人には二種類の血が流れているのではないかと錯覚してしまいそうです。

なんとも不気味な風景ですねー。

白「オー!! 会いたかったよー!」

R「久しぶりだねー。僕も会いたかったよ、アイラ」

Rは腕を広げて女に近づいていきます。

アイラと呼ばれた女も同じようにしてRに近づいていきました。

店の真ん中で二人は、外国映画のカップルのように抱き合っています。

そのまま放置していたら愛でも叫び出しそうな勢いです。

背丈が違いすぎるため、Rが彼女の胸に顔をうずめる形になっています。

私(なんて羨ましい風景だろう)

私はすぐに雑念を消してマスターの方に向き直ります。

今日も相変わらずの営業スマイルです。

私「昼間からショッキングな光景が見られるのはここだけですね」

マ「ショッキングとは失礼だな」

営業スマイルを浮かべるバーテンダーに、私も似たような笑顔を浮かべました。

この人の笑顔は、やはり私の笑顔と似ています。

私「あの白人女性がやってるのは、タトゥーですか?」

マ「よく知ってるね」

私「前に本で読みました。刺してから墨みたいなの入れるんですよね」

マ「君もやってあげようか?」

私「遠慮しておきます」

私は白人女が座っていた席の隣に座りました。

その隣にTが座り、Rはまだアイラと抱き合っていました。

今も腕には赤と黒の液体が流れ続け、二つが一緒になって不気味な一本の川が形成されています。

バーテンダーが私達にオレンジジュースを出してくれました。

私は一瞬躊躇してから一口だけ飲んでみました。

それは昨日とまったく変わらない味でした。

私「あの、昨日はすみませんでした」

マ「何のこと?」

マスターは何事もなかったように笑い飛ばしてくれました。

こうして素直に謝った私ですが、自分の才能を認めたわけではありません。

私「でも、イカレた人間を惹きつける才能は嘘ですよね?」

マ「俺の占いは当たるよ」

私「…………」

とても良い笑顔で言われてしまいました。

面倒くさいアル中だなと失礼なことを思っていたら、隣にいた中国女が私の肩をトントンと叩きました。

私「何ですか?」

私は怪訝な顔をして彼女の方を向きます。

中国女はかなり酔っぱらっているのか、顔がチャイナドレスと同じくらい真っ赤でした。

そして何を思ったか、彼女は私の背中に腕をまわし――。
















ズキュウゥゥゥゥゥン














唇を重ね合わせてきました。

突然のことに思考が止まり、身体も固まりました。

それを了承の意思表示だと勘違いした彼女は、舌を入れて思い切り絡めてきました。

中国人の彼女と日本人の私の国際交流とでもいいましょうか。

ええ、笑えませんね。

ひとしきり私の舌を味わった中国女は、口を離してから言いました。

中「ワタシ、この子好みネ」

白「やりすぎよ。バカ」
 
私は意識が遠のいていく中で、酒で喉を痛めたような女達のガラガラ声と腹を抱えて爆笑している男達の笑い声が聞こえました。

私の初めてのキスは……中国人の年上の風俗嬢ということになりますか。

驚きと気持ち悪さのあまり、私は気を失いました。

そのまま記憶喪失になってキスのことも過去のことも忘れられれば良かったのですが、現実はそう甘くありません。

目が覚めて最初に見たものは、燃えるような赤い色をしたチャイナドレスでした。

覗き込むようにしている中国女の顔が見えます。

どうやら私が気絶している間、ずっと彼女に膝枕をしてもらっていたようです。

中「この子、やっと起きたネ。そんなに私のキス嬉しかたか?」

私「うぅ……(´;ω;`)」

後に私は語ります。

初めてのキスは、酒と煙草とゲロの味がしました。

隠し味は中国四千年の歴史ですか?

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