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少しイカレてるくらいがちょうどいい
前回のあらすじ

ヒーロー見参!!

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「おーい、どうしたー?」

ナイフを持ったキチガイに殺されそうになっているこの状況に合わない声です。

ちょっと困った時くらいならそれでもいいですが、今はちょっとどころの時ではありません。

それでも声がした方を見ると『しおいぬ。』のマスターが煙草を口にくわえ、右手にスーパーの袋を持って立っていました。

おしいです。

実におしいです。

煙草だけならハードボイルド小説に出てくるカッコイイ主人公になれたでしょうに……。

マ「大丈夫かー?」

マスターの声色はブレません。

私「助けてくださーい!」

涙が出そうになるのを抑えて、喉から絞り出した声で助けを求めました。

世界の中心で愛を叫ぶ、ではありませんが、裏通りの中心で助けを求めます。

マ「ラジャー! 了解!」

マスターは酒でつぶれたガラガラ声で言うと、商品の入った袋を道路に置き、一瞬にして私の視界にドロップキックの体勢で現れました。

そして次の瞬間には、猫男とナイフを一緒に吹っ飛ばします。

それはとても見事なドロップキックでした。

マスターは華麗に着地を決めると、黙ってすたすたと歩き始めました。

私もすぐに立ち上がり、スーパーの買い物袋を抱えてマスターを追いました。

鼠顔の男は、いつの間にかいなくなっていました。

バー「しおいぬ。」に戻ってきてからすぐに言いました。

私「さっきはありがとうございました」
 
カウンターにつくほど深々と頭を下げました。

顔を上げて前を見ると、マスターはいつもの営業スマイルを見せてくれません。

マ「俺がいなかったら死んでたよ」

私「……」

マ「言ったよな。君の才能は、イカレた人間を惹きつけるって」

私「……」
 
マ「これは君にトラブルを引き寄せるということも意味しているんだ。これからも君はトラブルを巻き込まれていくよ。この街で生きていくなら気をつけるんだな」

私「……はい」

こうして私は使えない才能を認めて生きていくことになりました。

私の前にレシートが置かれます。

身に覚えのないそのレシートを手に取り、じっと見つめているとマスターが教えてくれます。

その顔には、いつもの笑顔が戻っていました。

マ「それはリンからの手紙だよ」

私「リン? ソルティ・ドッグって書いてありますけど」

マ「それは昨日あいつが飲んでたカクテル。そっちじゃなくて裏だよ。リンって書いてあるだろ。ほら昨日、君にキスした中国人」

私「ああ、あの人ですか」
 
あのチャイナドレスの似合う中国女の顔を思い出します。

昨日の出来事も私の才能が引き起こしたことなのでしょうか。

よくわかりません。

認めたくないけれど、認めなければいけません。

これから私はキチガイに怯えながら生活しなければいけないのです。

『きのうごメんネ。きみわたしのオとうとにてた。だからチューしたくなっちゃたよ』

下手くそな文字で、なんとも自分勝手な主張が綴られていました。

ため息をつきながらレシートの端に目をやると、見たことのない単語を見つけます。

私はマスターにレシートを渡して単語の意味を聞きます。
 
マ「これはツァイチェン、さようならって意味だ。もう一つは……ウォーアイニーだってさ、良かったね」

私「どんな意味です?」
 
マスターはニヤニヤ笑うだけでそれ以上教えてくれませんでした。

私はマスターに質問しました。

私「マスターはアル中なんですか? 手が震えてますけど」

マ「君は笑顔で毒を吐くね。まあ当たってるんだけどさ。でも、ヤク中よりずっとマシだろ」
 
私「まあ……そうですね」

二人して似たような笑い声をあげました。

笑い声が消えて静かになりました。

すると今度はマスターが口を開きます。
















マ「君の笑顔の下には何かが隠れてる」














私の顔から一瞬笑みが消え、すぐに笑みを見せます。

私「何のことですか?」

マ「とぼけるなよ。君の笑顔は無理矢理作ってるだろ」

私「作ってませんよ」

笑顔を崩さないように、引きつらないように気をつけて言いました。

マスターの営業スマイルも崩れません。

やはり鏡を見ているようで嫌になります。

何を考えているのか全く解らない笑顔です。

お互い様とはいえ、圧倒的に不利なのは私の方です。

私「Rは作ってますよね。あいつ、女を落とすために必要なのは笑顔と話術だってよく言ってますから。
 私はそんな器用なことできませんよ。やっぱり才能なのかなあ、アハハ」

マ「あいつは本心から笑ってるよ。そうじゃなきゃ、あんな癒されるような爽やかな笑顔はできないさ。
 だけど君は違う。君は笑ってるけど、目が笑ってないんだよね。それは無理矢理作っているから」

私「……」

マ「愛想笑いだから。そうだろ?」

再び私の顔から笑顔が消えました。

これ以上は無理だと悟って消したのです。

私「いつからバレてました?」

マ「初めて会ったときから」

私「えぇー……本当ですか?」

愛想笑いには自信があっただけにとても悔しいです。

そんな私を慰めるようにマスターが言います。

マ「俺の才能は全てを見抜く観察眼だ。俺の前では隠し事はできないよ」

私「はぁ……」

中学二年生の男子が喜びそうな才能ですね、とは言いませんでした。

マ「それより、君の愛想笑いができたわけを聞かせてよ」

それから私は、自分が愛想笑いをするようになった経緯を語りました。

祖父のこと、家族のこと、この街に引っ越してきたこと、教師のこと、精神崩壊のこと、そして親友二人のことも全てです。

すべてを話し終えた時、マスターはリンゴジュースをごちそうしてくれました。

それはオレンジジュースと同じくらいまずかったです。

おわり

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