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昔話『月と花火と私の失敗』

クラス内のいじめは終わりを迎えましたが、夏の暑さは今も続いています。

むしろこれからが本番です。

夏の体育の授業といえば水泳ですよね。

水泳は必修の授業なので全員必ず参加しなければなりません。

もちろん、体調不良を理由に休む生徒もいます。

しかし、中にはそれ以外の理由で休む人もいます。

私「結局、水泳の授業は一度も出なかったの?」

×「そうだけど」

それのどこが悪いの、と言いたげな目をこちらに向けました。

私の隣の席に座る女の子、×××はイカレています。

夏の暑さにやられているわけでも、誰かに恋しているからでもありません。

狂っているのです。

普通ではないのです。

私は彼女の長袖の服を見ながら指摘します。

私「腕の傷、教師は知らないの?」

×「知らない」

私「何か疑われない?」

×「全然」

私「……」

×「……」

さすがに無理ですよ、それは。





×××は私が疑う表情をしていることに気がついたのでしょう。

机の中から一冊のノートを取り出します。

それは彼女の名前が記名された連絡帳でした。

中を見てみると、子どもの筆跡の他に大人の筆跡の文章がありました。

どうやらそれは、彼女の母親が書いた文章のようです。

そこに書かれていたのは、身体的理由により水泳の授業を休ませるという旨でした。

確かに身体的理由かもしれませんが、本当にそれでいいのでしょうか。

しかし、母親は×××の傷のことを知っているのですね。

私「傷のこと、何も言ってこないの?」

×「うちの親は放任主義だから」

×××は興味がなさそうに呟きました。

節子、それは放任主義ちゃう。

育児放棄や。

節子も誤っておはじき丸呑みするレベルの驚きです。

戦争物アニメで「火垂るの墓」と「マヤの一生」はガチで泣けますよね。

とはいえ、私には人の家庭に口出しできる資格がないので何も言いません。

まあ、そんなことはどうでもいいのです。

すでに今学期の水泳の授業は終了しました

これ以降、彼女が身体的理由を言い訳にして体育の授業を休む必要はありません。

なぜなら、明日から夏休みに入るからです。

そして今日は終業式です。

すでに式は終わり、通知表や夏休み中の宿題の配布まで終わっていました。

教室には、大量の荷物をどうやって持ち帰るか悩んでいる人や大量のトラウマをどうやって我慢するか悩んでいる人が残っています。

私は荷物をすべて持ち帰っているので何も問題ありません。

大量のトラウマは、我慢しようがないので悩んでも仕方ありません。

私は困っている人も悩んでいる人も無視して帰ることにしました。

私「じゃあ、そろそろ帰るね。また夏休み明けに会おう」

×「ねぇ」

私が席から立ち上がったところですぐに声をかけてきました。

私「何?」

×「お祭り、行くの?」

私「祭り?」

×「そう、商店街のお祭り」

そういえばすっかり忘れていました。

今日、街では夏祭りが催されます。

この街のお祭りは、小学校の終業式と同じ日に催されるのだとクラスのみんなが言っていました。

私は人とゴミと人ごみが嫌いですが、お祭りは好きです。

TとRも祭りに行くと言っていましたが、私といっしょではありません。

Tはクラスメイトといっしょに行くそうです。

Rはもちろん女の子といっしょに行きます。

私は二人を誘って行くつもりでしたが、無理ならば仕方ありません。

そのことを×××に伝えると、非難するような口調で言ってきました。

×「あんた達、本当に友達なの?」

私「親友だよ」

けれど、友達だから親友だから毎日いっしょに行動しなければいけないというわけではありません。

友達でも親友でもいっしょに行動しない日があるでしょう。

私「それから×××も親友」

×「……」

私「照れてる?」

×「気持ち悪い」

私「ごめんなさい」

お互いの傷を教え、お互いの傷を理解し、お互いの傷を共感し、お互いの傷を舐めた仲なんですけどね。

親友だと思っていたのは私だけだったようです。

とても恥ずかしいです。

×「それで、お祭りは行くの?」

夏の暑さで頬を少し赤くした×××が再度尋ねてきます。

私「わからない」

夏の暑さに頭をやられた私は、考えることも面倒だったので適当に返事します。

それを聞いた彼女は、少し考えてから言いました。

×「じゃあ……行こうよ」

私「いっしょに?」

×「うん」

私「いいよ。家に帰ってから5時に校門前で待ち合わせでいいかな」

×「じゃ、また後で」

私は教室に×××を残して先に帰りました。

本当は、ずっと前から夏祭りに行くつもりでした。

けれど、いっしょに行こうと思っていた人がいなくなってしまったのです。

×××はその人の代わりにはなれません。

代わりにするつもりもありません。

それでも私は、あの人といっしょに夏祭りに行きたかったと今でも考えてしまうのです。

私(×××と一緒にいる時は考えないようにしないとなぁ)

街には出店が並び、どこか懐かしい祭囃子が聴こえてきます。

さあ、夏休みの始まりです。

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