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昔話『ライラックの咲かない冬』 3

前回のあらすじ

××××:私の本名

×××:彼女のあだ名



×××と私が死のうとした神社から逃げるようにして歩き続けました。

私「今もあのケーキ屋で働いてるんだ」

×「悪い?」

×××は真っ直ぐ前を向いて話します。

私「がんばれ」

私は愛想笑いを浮かべて言います。

×「うん」

市街地から遠ざかって郊外の住宅地にやってきました。

そこにあるのは×××の自宅です。

×「……」

×××は、わざと静かに玄関の戸を開けます。

私「おじゃましまーす!」

私は、わざと大きな声でしゃべります。

彼女の鋭い視線がこちらに飛んできます。

残念ながらそれに殺傷能力はありません。

そのうち家の奥からパタパタとスリッパの音が聞こえてきました。

そして現れたのは、晴れやかな表情をしたエプロン姿の女性です。

私「お久しぶりです」

私は愛想笑いを浮かべて言いました。

家族に対して浮かべる愛想笑いとは、少し違うかもしれません。

すると、彼女もにっこり笑って私を迎え入れてくれました。

×「ただいま。お母さん」

×××は少し不機嫌そうに言いながら家にあがりました。

母「どうぞ。入って」

私「はい。おじゃまします」

暖房のきいた部屋に通され、そこにはコタツがありました。

私「……」

×「どうかしたの?」

コタツの前で立ちつくしてなかなか入ろうとしない私に声をかけてきます。

私「ううん。別に」

私は何もなかったかのように振舞い、コタツに入りました。

×××のお母様は台所で何やら準備しているようです。

私は持ってきたお土産をいつ渡そうか迷っていたら×××に奪われました。

そのまま私の命も奪ってください、とは言えません。

彼女が私の命を奪うと約束したのはずっと昔のことで、約束を果たす寸前までいって未遂で終わりました。

×「何これ?」

私「ご飯のお供のようなもの」

×「美味しいの?」

私「まあまあ」

×「ふーん。ありがと」

私「いえいえ」

そのうちお母様が紅茶とケーキを持って戻ってきました。

それらを私と×××の前に出してから自分もコタツに入りました。

私「いただきます」

×「これもらった」

×××はお土産を渡します。

母「いつもありがとうね」

お母様は静かに微笑みます。

それからケーキを食べながら紅茶を飲みながら私と×××とお母様は、楽しくお話をすることにしました。

ケーキのこと、紅茶のこと、地元のこと、色々お話しました。

途中、×××が席を離れ、二階に向かいました。

すると、それを見計らったようにお母様がおっしゃいました。

母「本当に、ありがとうね」

お母様は毎年私に感謝の言葉を述べます。

何に関する感謝かと言いますと、娘の×××に関してです。

母「あなたのおかげであの娘もこうして……」

私「違います」

母「え?」

私「あいつが自分でがんばったからです」

母「……」

私「私は、本当に、何もしていないんです」

母「でもあなたが来てくれたことがきっかけで」

私「違います」

嘘ではないです。

お母様は、私が×××を助けたと思っているのでしょう。

でも違います。

私は、×××を利用しただけです。

だから、非難されることはあっても感謝されることなんて一つもないのです。

それなのに毎回会うたびに感謝されると、罪悪感で心が痛みます。

良心なんて精神崩壊したときにいっしょに壊れてなくなったとばかり思っていました。

それとも痛むのは別の何かでしょうか。

私が何も言えずにいると、お母様が口を開きます。

母「大学を卒業したらこっちに戻ってくるの?」

私「……わかりません」

母「そう」

私「はい」

お母様は少し残念そうな表情をしています。

私は顔を下に向けたままです。

そのうち二階から×××が下りてくる音が聞こえてきました。

そして私とお母様のいる部屋の戸を少し開けて言いました。

×「部屋に来て」

それからすぐに二階に戻っていきます。

私はその言葉に従って二階に行こうとコタツから出ます。

戸を開けて廊下に出ようとする私の背に声がかかりました。

振り返るとお母様がいつもの微笑を浮かべていました。











母「これからも娘をよろしくね」













私は愛想笑いしかできませんでした。

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