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昔話『ドウゲン坂から』8

前回のあらすじ

おまわりさん、コイツです。

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京都にいる非実在青少年の明石さんは顔についた蛾を触って言いました。

「むにゅっとしました、むにゅっと」

東京にいる実在青少年の私は女の子の胸を触って言いました。

「むにゅっとしました、むにゅっと」

うーん、非実在か実在かというだけで問題の重さはこうも変わるのですね。

つまり二次元と三次元は色々違うということです。

何やらディスプレイの向こう側から「比較対象が違う」とか「問題の論点が違う」と聞こえてきますが、きっとこれは幻聴ですよ。

そうそう、夏といえば私はあのアニメ映画を思い出します。

夏になると解放的な気分になって所かまわず脱ぎだす皆さんのことですから、『夏』『アニメ映画』というキーワードだけで何という作品か大体の見当はついていると思います。

おもしろいですよね、あの作品。

あの作品の中で一人の登場人物がこう言っていました。

「まあ、まずは落ち着きなさい。人間、落ち着きが肝心だよ」

いい台詞だと思います。

焦ってしまう時ほど落ち着かなければいけないのです。

ごく当たり前のことのようにも思えますが、いざという時それができないのが人間というものです。

私はあの作品を見てからというもの、焦ってしまう状況に陥るたびにあの台詞を思い出します。

深夜に女性の部屋で「こんな時、君ならどうする?」と押し倒されたとき……。

高校で胸の大きな女の子から「触ってもいいですよ」と言われたとき……。

夜の公園でガチムチのおにいさんに「行こうか」と誘われたとき……。

いつだってあの台詞が思い浮かびました……などと意味不明なことを言っております。

栄おばあちゃん。

確かに人間落ち着きが肝心だと思います。

しかし、今の私には心を落ち着かせることよりもしなければいけないことがあります。

それは――。














偽妹ちゃんの胸から左手をすぐさま離すということです。
















もしも私の左手が言葉を話すことができたらこう言ったでしょう。
















「脳の力など借りぬ! この程度なら脊髄の力のみで十分!!」















もしも私の右手が言葉を話すことができたらこう言ったでしょう。














「左手は添えるだけ? ハッ、ならばこの右手で鷲掴みにしてみせようぞ!!」
















『神の左手悪魔の右手』という単語があります。

これを今の私に置き換えるとしたら、左手は理性を表し、右手は本能を表していると思うのです。

簡単に言ってしまうと、左手は脊髄反射の如く胸から手を離せといい、右手はもっともっと揉ませろという……などと意味不明なことを言っております。

さて、そろそろ現実逃避するのはやめましょうか。

私が逃げるのは“今”の問題ではなく“過去”の問題ばかりです。

私(笑えない……)

私は脊髄反射の如く左手を彼女の胸から引き離し、同時に脊髄反射の如く思い切り頭を下げました。

私「すみませんでした!!」

妹「いえ、あの、大丈夫ですよ」

私「本当にわざとじゃなくて……本当にごめんなさい」

妹「おにいちゃん。顔をあげてください」

私はひざ蹴りを喰らわされる恐怖に怯えながらも頭をあげます。

偽妹ちゃんの顔は少しだけ赤くなっていました。

先ほどまでいたヤクザはいつの間にかいなくなっていました。

妹「行きましょう。おにいちゃん」

私「うん」

それから私たちは無言で歩き続けました。

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