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昔話『About A ××××』13

前回のあらすじ

ヨーグルト。

いいえ、ケフィアです。



Tに引きずられるようにして走って行くと、その先には立ち入り禁止の屋上がありました。

理科や生活の授業で屋上を使用する際は解放されます。

しかし今は一時間目はおろか朝学級すら始まる時間ではありません。

私「開いてないよ」

T「開いてるんだよ」

Tはにやっと笑い、屋上へと続く扉を開けました。

いつも鍵がかかっているはずの扉が、今日はいとも簡単に開いてしまいました。

私「どうして?」

T「Rが鍵で開けたんだよ」

R?

ああ、さっきのソース焼きそばみたいな顔の奴のことですね。

ソース焼きそばみたいな顔をしているくせに素敵な笑顔を見せる奴でした。

食べ物の好き嫌いはいけないって言いますからねっ☆

屋上へ入っていくと、開けた世界が広がっています。

世界というにはとても狭いところですが、見上げれば不揃いの雲たちが青い空に流れています。

ソース焼きそばみたいな顔をしたRがニコニコ笑って手招きしています。

一つの疑問は消えましたが、もう一つ疑問が残っています。

私「鍵は職員室にあるんじゃないの?」

R「パクって来たんだよ」
 
Rは素敵な笑顔で私に言いました。

パクってきた?

盗んできた?

まあ、どうでもいいです。

私は二人の存在を気にせず、久しぶりに訪れた屋上を歩きまわりました。

R「俺と貴則はここでいつもボクシングやってるんだよ」

T「お前もやらないか?」

振り向けば、ニヤニヤ笑って肩を組んでいる馬鹿が二人。

私はいつも教師たちに向ける愛想笑いで言いました。

私「面倒くさい」
 
私は来た道を戻ってそのまま帰ろうとしました。

すると、突然後ろから声がかかりました。

「カーン!!」








は?









後ろを振り向くとTが走ってきました。

それでも顔は笑っていてかなり不気味です。

その不気味さに恐怖を覚え、私の足はすくんで動けなくなりました。

そして――Tの左拳が私の顔に当たりました。

痛くて、痛くて、涙が出てきます。

しかし私は泣きません。

赤鬼が泣かなくなったのと同じようなことです。

祖父に虐げられた頃の心の痛みに比べたら、こんなのは痛みではありません。

私はTをにらみつけます。

さっきまでの愛想笑いは一瞬にして消えました。

T「いつもヘラヘラ笑ってるから、ただのお坊ちゃんかと思ってたけど違うんだな」

私「うるさい!!」

言い終わると同時に拳を振り上げていました。

しかし、私が拳を振り下ろすよりも早くTの左拳がこちらに飛んできます。

そうかと思えば、口の中で血の味が一気に広がりました。

うえ。

気持ち悪い。

吐きそう。

それでも俄然怒りに身を任せて殴りかかろうとします。

が、Rが間に入って止めました。

Tは私の肩にポンと手を置くと、近くに置いてあった鞄に近づき、大量の氷が入った袋を渡してきました。

私は黙ってそれを受け取り、目の周りや口を冷やします。

T「お前、俺に本気で勝てると思った?」
 
ニヤニヤ笑いながらTが歩み寄ってきます。

私は持っていた氷の袋を投げ返します。

私「思ってない。けど……」

あの日から私は怒ることも泣くことも笑うこともしなくなっていました。

怒ることがあっても怒ることもしません。

悲しいと思うことはあまりないから泣くこともありませんでした。

そして笑うことは、愛想笑いによって代用していました。

私「私は……強くならないといけなかったんだ」

吐き捨てるように言葉をもらしました。

さっきまで笑っていたTとRが急に静かになりました。

T「話を聞かせろよ」

R「どうして強くならないといけないのか」

私「……」

私の心はもう治りません。

一度壊れた精神はもう元には戻らないのです。

しかし、どうしてでしょう。

こいつらに話しても何の意味もないと分かっているのに。

気づけば私は話していました。

祖父のこと、家族のこと、去年のこと、愛想笑いのことを。

話し終えるとTが少しだけ俯きました。

Rは神妙な表情を崩しません。

そしてTはポツリと言葉をもらしました。
















T「お前すげえな」

私「馬鹿にしてるの?」

T「馬鹿。なんでそうなんだよ」

















私がほめられるところなんて一つもありませんから。

精神的に弱い奴が何の努力もしなかったせいで頭の悪い奴らに弱い精神を壊されただけの話です。

そんな私のどこがすごいというのでしょうか。

私「どこがすごいんだよ。私が弱いから……いけないんだ」

T「そこだよ」

Tの言いたいことが分かりませんでした。

彼は腕を組み何度も頷きながらしゃべり始めます。

T「普通の奴は挫けるんだよ。で、自分は不幸だぁーとか言い出してな」

私「……」

T「ったく、何様だっつーんだよ。自分で不幸だとか言う奴、俺嫌いなんだよ」
 「でもよ、お前はそんなことを一言も言ってない!」
 「そこがすげーんだよ! 自分を不幸と思わずに立ち上がったわけだろ!?」
 「すげーカッコ良いじゃねーかよ!!」

私「……………………(´Д`;)」

私の過去は、彼の中で勝手に良い話として解釈されたようです。

困惑している私にRが小声で言いました。

R「こいつ単純で馬鹿だからすぐはしゃぐんだよ。でも、Tの言ってることは正しいよ」

その後、私は何を言ったのか覚えていません。

しかしこれだけは覚えています。

二人の友達ができました。

それから――私は久しぶりに笑いました。

愛想笑いではない本当の笑顔です。

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