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昔話『あの日見た花の名前を私達は忘れない』12

前回のあらすじ

薬品臭い女。

一歩間違えたらヤバイですね。



いつものファストフード店。

いつもの席。

だけど私の前に座っているのはいつもと違う人。

髪がゆるふわで、白くてゆるふわな服が似合う花のような女性です。

でも彼女の身体からは花の香りも香水の匂いもしません。

学校の理科準備室に入った時のような匂いがします。

この人は友人の先輩で、名前は……。

あ、お名前を聞いていませんでした。

まあ、名前なんてどうでもいいですね。

この先、この人と私が深く関わることはないでしょうから。

酔っぱらったこの人を家に送ったのも友人の先輩だからです。

今日の昼食も友人がセッティングしたからです。

そして今、先輩の相談にのっているのは友人に恋しているからです。

私と彼女の間には「友人」が入っています。

つまり友人を介してしか私はこの人と関わることができないのです。

まあ、別にいいんですけどね。

イカレた女の子に興味はあっても略奪愛には興味がありませんから。

私はコーヒーにミルクも砂糖も入れずに飲みました。

口いっぱいにコーヒーの苦みが広がります。

いつもはミルクか砂糖を入れている飲んでいます。

しかし、今日は何も入れないで苦みのあるコーヒーを飲みたい気分でした。

何となくです。

本当に何となくです。

月に一度か二度だけ炭酸飲料を飲みたくなるように、ごくたまにブラックコーヒーを飲みたくなるのです。

私「お幸せに~」

甘ったるい二人の未来に対して祝福の言葉を述べました。

結末のわかっている小説なんておもしろくありません。

同じように、結末のわかっている恋についてこれ以上相談に乗る必要はありません。

けれど、先輩は寂しそうに笑って言いました。

先「相談はまだ終わってないよ」

先輩もオレンジジュースを飲んで一息つきます。

私「先輩の過去なんて友人なら受け入れてくれますよ」

お互いのことを好きあっているのに新たな一歩を踏み出せないとしたら、過去に何かあるのだろうと推察します。

例えば……


昔付き合っていた人にすべての食事を先割れスプーンで食べるよう命じられていた。


でも、あれって便利ですよね(・∀・)ネー

昔付き合っていた人に学校にいる間は白衣しか着ないように命じられていた。

でも、着る服を考えなくていいから楽そうですよね(・∀・)ネー


















先「あのね」

私「はい」

先「私、ユリみたいなんだよね……」

私「はぁ。そうですか」

確かに第一印象はユリの花のような人でした。

けれど、自分で自分をユリの花のようだと言う人も珍しいですね。

うーん、でも謙虚を美徳とする日本人としてはどうなんでしょう。

先「みりんちゃんって鈍感?」

私「いいえ。感覚が鋭すぎてラブコメの主人公にはなれないと自覚しています」

こういうことを自分で言っちゃうのもダメだと思います。

先「だから、私はユリなの」

普段ほとんど使われない頭をフル回転させて彼女の言葉の意味を探ります。

そして導き出された答えは――。
















私「頭の中がお花畑って意味ですか?」





















先「女の子が好きって意味。だからユリ。レズなの……」

先輩は、呆れたような情けないような怒っているようないろんな感情を寄せ集めた表情になっていました。

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