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昔話『しおいぬ。』 2

前回のあらすじ

ようこそ、Barしおいぬ。へ






私「初めまして××××です」

私は本名を名乗りました。

マ「初めまして。このBarのマスターです」

バーテンダーは私たちにオレンジジュースをごちそうしてくれました。

会った時から営業スマイルは崩しません。

いただいたオレンジジュースを飲んでみると、あまりのマズさに吐きだしてしまいそうになりました。

柄にもなく「ゲロマズ!!」と叫びたくなりました。

なんでしょう。

オレンジジュースを水とごま油で割ったようなお味がしますよ。

Tはオレンジジュースを私の方に追いやりながら言います。

T「おじさん。こいつの手相を見てやってよ」

R「きっとおもしろい結果が出てくると思うよマスター」

マ「そうだな。じゃあ、両手を出して」

飲みたくもないオレンジジュースと格闘している間に何やら話が進められています。

私が関係している話だというのに当の本人は蚊帳の外です。

TのオレンジジュースをRの方に追いやってから聞きました。

私「あの、手相って片手でいいんじゃないですか?」

マ「大丈夫だよ。俺の占いはテキトーだから」

私「……」

占いというものを全く信じていない私ですが、この占いは絶対に信じてはいけないと心に決めました。

それでも友達の勧めを無下にするのは申し訳ないので占ってもらうことにしました。

私「じゃあ、よろしくお願いします」

両手をカウンターに置くと、マスターは私の手の線をなぞり始めます。

何が出るかな♪ 何が出るかな♪

頭の奥で黄色いライオンがコサックダンスを踊っている気がします。

ようやくマスターの指の動きが止まり、にっこり笑いかけてきました。

マ「君の手は、俺に色々なことを教えてくれたよ」

私「そうですか」

早く終わらせたいので面倒くさそうに話す私に、それでもマスターは営業スマイルを崩しません。

客商売を営む者の鑑だと思います(・∀・)パチパチパチ

まあ、顔全体に「嘘」を塗りたくったような胡散臭い笑顔ですけどね。

何だか鏡を見ているような気分になってきました。

残っていたオレンジジュースを一気に喉に流し込んでから結果を聞きました。

私「それで何が解りました?」

マ「君の隠れた才能が解った」

私「才能なんてありませんよ。天才じゃないんだから」

私は呆れたような口調で話します。

ふと顔を横に向けると、TとRも呆れたような顔で私を見ているではありませんか。

私が何かを言う前にマスターが口を開きました。

マ「人によって違うけど、誰だって一つは才能を持っているんだよ。才能を持っていない人間なんていない。
もし無いと思っているのならその人が気づいていないだけだ」

そんなものでしょうか。

誰もが才能を持っているとしたらTやR、マスターも才能を持っているはずです。

興味はありませんでしたが、試しに聞いてみました。

私「マスターの才能は何ですか?」

マ「全てを見抜く才能だよ」

私「…………」













中二な中年ですか、あなたは。

いい年齢して「うぅ……俺の左眼が疼きやがる……」ってやってるんですか?















色々言いたいことをなんとか抑えて、今度は親友二人に確認を取ります。

私「マスターの言ってることって本当なの?」

T「本当に決まってるだろ! おじさんの前では嘘が通用しないんだ。どんな隠し事も見抜くんだよ」

色白な少年がにかっと笑います。

おじとは全然違う笑顔です。

R「疑うのも無理ないよ。俺らの才能を聞けば、信じると思うよ」

顔面でソース焼きそばを作ったような顔色の少年がにっこり笑います。

その笑顔を見た女性の多くは、添い寝くらいならしてもいいと思うかもしれません。

私「二人の才能って何?」

T「Rの才能は女を惹きつける魅力だ」

R「Tの才能はもちろん圧倒的な身体能力だよ。ずば抜けた格闘センスはそこから来てるのかも」

私「ああ、なるほど」

私はそれを聞いて少しだけ納得できました。

全てを見抜く才能なんて中二臭がぷんぷんすると思っていましたけれど、あながち間違っていないかもしれません。

Tの才能は圧倒的な身体能力、ずば抜けた格闘センスです。

Rの才能は女を惹きつける魅力です。

どちらも間違っていません。

Tはどんなスポーツもこなせますし、どんな時でも驚異的な結果を出します。

毎朝屋上でやっているボクシングでも一度も勝ったことがありません。

Tは年齢を問わず色々な女性を惹きつけます。

顔がいいわけではありません。

ソース焼きそばみたいな顔ですが、笑顔だけは素敵なのです。

ソース焼きそばみたいな顔ですが、笑顔だけは素敵なのです。

私は少しだけ期待して自分の結果を待ちました。














マ「君の才能はイカレた人間を惹きつける」


















私「はひ?」

予想だにしなかった結果に思わず変な声をあげてしまいました。

マスターにもう一度言ってくれるように頼みます。

それからはっきりと言いました。

マ「君の才能はイカレた人間を惹きつける。蜂にとっての花の蜜、ヤク中にとってのドラッグみたいなものだよ。君にはイカレた奴らを惹きつける魅力があるんだ」

私「…………」

突然の死刑宣告を受けたように呆然とする私です。

友人たちは腹を抱えて爆笑しています。

友1「イカレた奴を惹きつけるって……意味わかんねぇ!!」

友2「確かに才能には色々あるけど……それって本当に才能?」

マ「俺の占いでそう出たんだから才能に決まってるだろ!」

怒った表情を見せるバーテンダーは、空になったコップにオレンジジュースを注いでいきます。

私はそれを飲まずに立ちあがり、出口に向かって歩き出していました。

戸を開いてから振り返ってマスターに向かって言い放ちました。













私「クソ不味いオレンジジュースとインチキ占いをどうもありがとうございました。さよなら」















外に出てすぐに背後から声がかかりました。














マ「ごめん、オレンジジュースは嫌いだったか。今度はリンゴジュースを用意しておくからまた来てくれよ!!」











私(問題はそこじゃねぇよ……)

その時の私には、マスターの言うことが酔っ払いの戯言にしか思えませんでした。

しかし、すぐに知ることになります。

才能の存在と裏通りの実態を――。

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