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昔話『Under The Smile』

梅雨の時期のことです。

私とTとRは、お金稼ぎをしていました。

Rはホテル経営者のご子息なのでお金には困っていません。

私もお金が欲しいと切望するほどお金には困っていません。

私達の中で最もお金に困っているのは――。

T「金が欲しいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

私「うるさい」

R「ここは屋上じゃないんだぞ。教室の中で叫ぶなよ」

いつも屋上でやっていたボクシングも梅雨の時期は中止です。

確かにボクシングは好きですが、雨に濡れてまでボクシングをしたいとは思いません。

ここ一週間ほどボクシングをしていないので、戦闘民族に限りなく近いTは欲求不満状態です。

私はボクシングと金を連想してある仕事を思いつきました。

私「殴られ屋」

T「は?」

私「知らない?」

R「ああ、知ってる」

T「何だよそれ」

先ほどまで教室の床で転がっていたTが動きを止めて私の話を聞こうとします。

私「制限時間を決めて、その間ずーっと人から殴られる仕事」

T「はぁ!?」

私「もちろん避けてもいいけどね。3分間1000円ぐらいが相場だったかな」

R「Tは頑丈だし、動体視力も良いからやってみたら?」

Rはニコニコ笑って勧めます。

Tは再び転がり始めます。

T「俺は殴るのが好きだが、殴られるのは好かん」

私「そうだよね」

なんとなく予想はしていました。

それに、殴られ屋は小学生がすぐに始められるほど簡単な仕事ではないでしょう。

R「でもさ、どうしてそんなに金が欲しいんだよ」

T「金持ちに貧乏人の気持ちがわかってたまるか」

R「じゃあ貧乏人に金持ちの苦労がわかるのか?」

T「なんだとてめぇ」

普段怒らないRも今のTの態度は我慢できなかったようです。

私は面倒くさいと思いつつ、親友二人の間に入って仲裁します。

私「Tがどうして金が欲しいのかは聞かないけどさ、ならどうやって稼ぐ?」

T「……」

R「……」

二人はようやく静かになりました。





私「マスターに仕事紹介してもらえば?」

T「それはもう頼んだ」

私「そうなんだ」

R「あの人が紹介してくれる仕事って?」

T「駅前のコインロッカーに指定されたモノを入れる。それでモノの代わりに金が入るからそれを持って帰るって仕事」

私「それって裏通り関係?」

Tは黙って頷きました。

私が生まれた街には表通りと裏通りがあります。

表通りは安心安全を目指して作られた街です。

裏通りは安心安全を無視して作られた街です。

裏通りで起こったことは表通りの人達が知ることはありません。

全てなかったことにされますし、わざわざ知る必要もありません。

知らな過ぎることも問題ですが、知り過ぎることもまた問題なのです。

私(少し前までは知らな過ぎたんだよね……)

相変わらずゴロゴロ転がっているTを見ながら裏通りであったことを思い出しました。

あれは私が裏通りを一人で歩いていた時のことです。

裏通りは常に危険でいっぱいです。

私のような弱い人間が一人で歩いていたらイカレた奴らに殺されてしまいます。

しかし、その日はどうしても裏通りに行かなければいけなかったのです。

それは――イカレた女性に会うためです。

私「リンさーん」

私は手を振りながらその女性に近づきます。

リ「遅いよー。早く会いたかたよ」

声は不機嫌そうなのに、顔はとても嬉しそうでした。

私の足取りも少し速まります。

彼女のところにたどり着いた時、私達は強く抱きしめ合いました。

しかしながら私達には身長差があります。

そのため私は彼女の柔らかな胸に顔を埋める形になりました。

リ「ぎゅうー」

私「リンさん。痛いですよ」

彼女の体からは香水のにおいと煙草の匂いがしました。

昨日の夜もお仕事だったのでしょうか。

そして今日もこれからお仕事でしょうか。

私「最近はバー「しおいぬ。」に来ないんですね」

リ「そうね。ちょっと忙しくて」

リンさんは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべました。

私「でも今日は会えてうれしいです」

私は愛想笑いを浮かべて応えました。

私とリンさんが「しおいぬ。」で衝撃的な出会いを果たしたのは、ほんの一カ月ほど前です。

彼女は初対面の私にいきなりディープキスをしてきました。

出会いは最悪でした。

けれど、それから「しおいぬ。」で顔を合わせて話をするうちに楽しくなってきました。

そして今ではこうして週に何度か会うような間柄になったのです。

私は日本人で、学生です。

彼女は中国人で、風俗嬢です。

まあ、そんなことはどうでもいいのです(・∀・)キニシナイ♪

リ「あ、もう仕事行かなきゃ」

私「行ってらっしゃーい」

気がつけばもう夕方でした。

今日はここまでのようです。

リンさんは灰色の雑居ビルに向かい、私は表通りへと戻ります。

裏通りは常に危ないところですが、暗くなった頃が最も危ないのです。

イカレた人間が活動し始める時間だからです。

私はイカレた人間に会わないためにも急ぎ足になります。

しかし、急ぎ過ぎたあまり普段使わない道に入ってきてしまいました。

近道になるかもしれないと考えたのが間違いでした。

来た道を戻ろうか、進もうか、迷っている時に声をかけられました。












「バカチョンいる?」











幻聴かと思いました。

バカチョン?

何のことでしょう。

全く意味が分かりませんでした。










「バカチョンいる?」









どうやら幻聴ではないようです。

よく見れば道の先には一人の露天商がいました。

多分、アラブ人だと思います。

さらによく見れば露天商が私を手招きしているではありませんか。

私は不安に想いながらも恐る恐るその人の元に近づいて行きます。

道端に広げられた商品は一つだけでした。

ア「バカチョンいる?」

商人は言います。

私「バカチョンて何ですか?」

私は聞きます。

ア「バカチョンこれ。バカチョンカメラ」

商人は道端に広げた一つの商品、使い捨てカメラを指さして言いました。

そう言えば聞いたことがあります。

使い捨てカメラのことを「バカチョンカメラ」と呼ぶ人がいるということです。

私「いりません」

少し怖いですが、はっきりとお断りしました。

アラブ人は少しの沈黙の後、すぐに新たな言葉を告げました。

ア「ガチャピン!!」

私「っ!?」

突然大きな声を出すので驚いてしまいました。

ガチャピン?

あの黄緑色の恐竜もどきがどうしたというのでしょう。

ア「ガチャピンいる?」

私「いりません」

ア「子どもはガチャピン好き」

私「私は赤い方が好きです」

あの全身血まみれな感じが何とも言えません。

私「それより、この先の道ってどこにつながりますか?」

ア「表通り」

私「本当ですか?」

ア「アラブさん嘘つかない」

私「アラブさん……?」

ア「ぼくの名前」

私「ありがとうございます。アラブさん」

アラブさんと名乗る露天商は、ニコニコ営業スマイルで手を振ってくれました。

T「どうすっかなー。クスリ運びするかなー」

R「やめとけよ。ヤク中に殺されるぞ」

私が無関係な回想に浸っている間もTの仕事の話は全く進展を見せていませんでした。

私は窓の外を眺めながら色々なことを考えました。

その大半はしょうもないことでしたけれど、少しは真面目なことも考えていました。

私「才能を活かせる仕事をしよう」

私は思いついたことを言葉にしていました。

TとRは「何を言っているんだこいつは」と言いたげな目をしていました。

自分でもそう思います。

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