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昔話『月と花火と私の失敗』3

前回のあらすじ

むしろ今日のネタバレ

最近あったメールでのやり取り

私『月が綺麗ですねって知ってる?』

×『なにそれ? こっち曇ってるから月見えない』

私『あなたとなら死んでもいいは?』

×『また死にたいの? どうでもいいけど。夏休みなら帰ってきなよ』

私『就職活動中なのです……』

×『あたしの作ったケーキと就職活動どっちが大事なの?』

私『チーズケーキ?』

×『添付写真チョコケーキ』

私『食べたい。冷蔵で宅配して』

×『食べにきなさい』

私『がんばる……』

私と×××は、嫁以上恋人未満の関係を続けています。





たこ焼きを食べました。

焼きそばを食べました。

わたあめを食べました。

どれも美味しかったです。

少し高かったですけどね。

私「次は何を食べようかな」

×「まだ食べるの?」

わたあめをついばむように食べている×××が呆れるように言いました。

私「夕飯食べてないから」

焼きそばのパックをゴミ箱に捨てながら言いました。

いつか言ってみたいものです。

「俺の胃袋は宇宙だ」と。

あのドラマはおもしろかったですよね、うんうん。

本編のドラマも良いですし、スペシャル版も良かったです。

それにしても昔のドラマって異様なほどキャストが豪華ですよね。

次は何を食べようかなーとふらふら歩いていると、三色団子の屋台を見つけました。

個人的にはみたらし団子や餡団子を食べたいと思いましたが、ここは三色団子で手を打ちましょう。

忍たま乱太郎のアニメに出てくるお団子ってとても美味しそうに見えませんか?

あの頃、見るたびにお団子を食べたくなったのは私だけではないと思います。

まあ、そんなことはどうでもいいのです。

今は目先のお団子に集中しましょう。

私「お団子くださいなー♪」

財布を取り出しながら屋台の前に来ました。

しまった……と思いました。

目の前にお団子のような頭をしたおっさんがいたからです。

しかもスキンヘッドです。

もしもこの人がお寺の坊さんなら、お手手のしわとしわを合わせてしあわせーと拝むべきところです。

しかし、こんなところにお坊さんがいるわけありません。

お前のような坊さんがいるか、と誰でも一発で見破ることができます。

「いらっしゃい」

低く野太い声で声をかけてきました。

黒いシャツの袖からチラチラと刺青が見えます。

どう見てもヤクザです。

本当にありがとうございました。

裏通りは何度も訪れていますが、こうしてヤクザをじっくりと見るのは初めてかもしれません。

リンさんはこいつらにこき使われていたんだなぁ、という想いが心の中に芽生えました。

何だかなぁ。

不法入国したリンさんが悪いのは分かっていますが、何だかなぁと思ってしまうのです。

ヤ「おい、何にすんの?」

私「…………三色団子ください」

客商売なのにきつい言葉遣いでした。

面倒な屋台に来てしまったと後悔しました。

ヤ「五百円」

安定のぼったくり価格です。

私は黙って千円札を渡します。

ヤクザは黙って千円札を奪い取ります。

そしてもう片方の手で三色団子のパックを渡してきました。

私は商品を受け取ったらすぐにその場を離れたいところでしたが、まだ受け取っていないものがあります。

私「……」

ヤ「……」

私「……」

ヤ「……」

私「お釣り」

ヤ「はぁ!?」



























私「釣りをよこせ、クソヤー公!」

























ヤクザがブチ切れました。

当たり前です。

大韓○国のタクシー運転手ばりに顔を真っ赤にして怒っています。

私は五百円をあきらめて×××の元に戻ります。

彼女は不機嫌そうににらんできました。

×「遅い」

私はそれを無視して彼女の手を取って走り出します。

浴衣姿で足元は草履なので早く走ることができません。

それでも走らなければヤクザといっしょに山へピクニックか海へ海水浴に行くことになってしまいます。

もしくは臓器を抜き取られて肉屋に売り飛ばされるでしょうか。

それはいけません。

×××は自分の身体を傷つけるキチガイですが、他人に傷つけられることを何より恐れています。

×「あんた、何やったの!?」

屋台と人ごみをかき分けながら走る私に尋ねます。

私「ヤクザに喧嘩を……」

後ろを振り向くこともできずに答えます。

×「アホ! バカ!」

彼女の手が私の手をさらに強くぎゅっと握られました。

少し痛いです。

私も少しだけ強く握り返して商店街を抜けて駅前に向かいます。

駅前なら近くに交番がありますし、ヤクザも国家権力の前では手を出せないでしょう。

どれくらい走ったでしょう。

ようやく駅舎が見えてきたところで×××が言いました。

×「ちょっと待って。もう大丈夫」

私「本当に?」

×「うん……はぁ……もう最悪」

私「ごめん」

×「足痛いし」

私「ごめん」

×「汗かいちゃったし」

私「ごめんなさい」

一時の感情に任せて暴言に吐くなんて馬鹿のやることです。

まさに愚の骨頂です。

私は彼女の機嫌を取り戻すためにも何か飲み物を買おうと屋台を探します。

しかし、商店街から離れすぎているので何もありません。

自販機も見当たりません。

コンビニもスーパーもありません。

あるのは木のベンチだけでした。

ひとまず私達はそこに座って休むことにしました。

駅前だというのに辺りは薄暗く、開いているお店は一つもありませんでした。

私「そういえば打ち上げ花火は?」

×「どういうこと?」

私「祭りといえば打ち上げ花火じゃない?」

×「この街ではあがらないよ」

え、そうなんですか?

こちらに引っ越してから一年経ちましたが、まだまだ知らないことがあるようです。

私「花火大会も?」

×「あったけど、今はなくなっちゃった」

時代の流れでしょうか。

運営している団体の資金繰りが悪くなったのかもしれません。

私「そっか。それは残念だなぁ」

×「ねぇ、お腹空いた」

私「千円で買ったお団子ならあるけど」

×「ちょうだい」

パックを開けて一本の団子を渡します。

私も一本持って食べ始めます。

パクパクモグモグと食べながら空を見上げると、綺麗なお月さまがキラキラと輝いていました。

花火が見られないのは少し残念ですが、少し早いお月見も良いと思います。

ちょうど月見用の団子もありますし。

私は月を見ながらふと思いました。























私「月が綺麗だね」
















×××がそれに対して何と答えたのか、それは忘れてしまいました。

彼女は黙々とお団子を食べていましたから。

その後、月見は中国から伝わった文化で、日本で見る月と中国で見る月は違うということを話しました。

日本では餅をつくうさぎがいるように見えますが、中国では薬草をつくうさぎが見えるそうです。

全部、リンさんが教えてくれたことでした。

遠くから人の声や祭囃子が聞こえてきます。

まだまだこの街のお祭りは続くようです。

おわり

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